※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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切片の復習
「集合のはなし」のシリーズで紹介した、切片について復習するところから始めます。集合$X=\{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7\}$の5に関する始切片は、5より前の(小さい)要素を並べた集合ですので
$$IS_X(5)=\{1, 2, 3, 4\}$$
始切片を生成する作業は、集合$X$を下組$\{1, 2, 3, 4\}$と上組$\{5, 6, 7\}$に分割する作業とみなすこともできます。
生じうる分割の種類
一般に、集合$X$を下組$A$と上組$B$に分割したとき、次の条件を満たすものを分割と呼ぶことにしましょう。
- $A\neq\varnothing$ かつ $B\neq\varnothing$
- $X=A\cup B$
- $A$から取り出したすべての要素 $a$ と$B$から取り出したすべての要素 $b$ について、$a<b$
下組$A$と上組$B$の特徴は、次のいずれかの組み合わせになります。
- $A$に最大元があり、$B$に最小元がある
- $A$に最大元があり、$B$に最小元がない
- $A$に最大元がなく、$B$に最小元がある
- $A$に最大元がなく、$B$に最小元がない
前節では、$A=\{1, 2, 3, 4\}$と$B=\{5, 6, 7\}$を得ました。$A$には最大元4があり、$B$には最小元5があります。この組み合わせはケース1に該当します。整列集合などを分割した結果はケース1になります。
整列集合ではない集合、たとえば全順序集合である有理数、を分割するといずれの結果になるでしょうか。有理数全体の集合$\mathbb{Q}$を、有理数0.5までとそれ以降に分割すると
$$A_{\mathbb{Q}}=(-\infty, 0.5] B_{\mathbb{Q}}=(0.5, +\infty)$$
0.5は$A_{\mathbb{Q}}$に属し、$B_{\mathbb{Q}}$には属しません。$A_{\mathbb{Q}}$の最大元は0.5、$B_{\mathbb{Q}}$の最小元は、0.5以上で最小の有理数を指差確認できませんので、ないと評価します。この組み合わせはケース2に該当します。無理数を含む実数全体の集合$\mathbb{R}$を有理数0.5までとそれ以降に分割しても、結果はケース2になります。
$$A_{\mathbb{R}}=(-\infty, 0.5] B_{\mathbb{R}}=(0.5, +\infty)$$
分割結果から有理数と実数の区別はつきません。同じものにみえます。ただ、集合の濃度は$|\mathbb{Q}|<|\mathbb{R}|$ですので、両者は明らかに異なります。分割結果からも有理数と実数の違いを特徴づけられるでしょうか。
ここで、実数の存在を知りつつ、有理数の集合だけを問題にするというアクロバティックな状況を考えます。話の見通しをよくするために有理数全体の集合$\mathbb{Q}$を、無理数$\sqrt{2}$を境に分割することを例にします。
$$A_{\mathbb{Q}}=(-\infty, \sqrt{2}) B_{\mathbb{Q}}=(\sqrt{2}, +\infty)$$
$A$と$B$いずれも開区間になりますので、ケース4に該当します。ケース4になるのは、境である$\sqrt{2}$が有理数ではなく無理数であるためです。無理数を含む実数全体の集合$\mathbb{R}$を$\sqrt{2}$までとそれ以降に分割すると、有理数とは異なる結果になります。
$$A_{\mathbb{R}}=(-\infty, \sqrt{2}] B_{\mathbb{R}}=(\sqrt{2}, +\infty)$$
$A_{\mathbb{R}}$が半開区間になりますので、ケース2に該当します。結果が異なるのは、境である$\sqrt{2}$が有理数ではなく、実数であるためです。
連続の公理
これを有理数と実数の違いとしよう、というのが連続の公理です。つまり、上のケース2とケース3のいずれかだけが生じうる集合だけを連続とみなそう、ということです。言い換えると、実数を超える濃度の数の集合はないと仮定する、ということです。これは公理ですので、真偽を議論する性質のものではなく、こうしておくと後の話がしやすいという性質のものです。
この公理を認めれば、生じうる分割結果で数の種類を区分けできます。
自然数(整列集合):分割の結果、ケース1が生じる
有理数(全順序集合):分割の結果、ケース2, 3, 4が生じうる
実数(連続な全順序集合):分割の結果、ケース2または3が生じうる
実数の空間では、直角三角形の斜辺など、無理数が生じうる距離も測れます。実際に存在する長さを測れるようにしましょう、というのが連続の公理です。
デデキントの定理
連続な全順序集合である実数の空間では、上のケース2とケース3だけが生じうるというのがデデキント(Dedekind)の定理です。上に掲げたケース2とケース3の番号を振り直し、デデキントの定理として再掲します。実数を下組$A$と上組$B$に切断した結果は次のいずれかになります。
- $A$に最大元があり、$B$に最小元がない
- $A$に最大元がなく、$B$に最小元がある
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集合の外にあるものを使って集合を分割する、というのはかなりきわどいレトリックです。ただ、定規📏にたとえると、分からなくもないかなとも思います。定規に刻まれたcm単位の目盛りを0と自然数、mm単位の目盛りを有理数とすると、実数は目盛りを書き込んでいる定規の材質にあたります。プラスチックの定規をmm単位の目盛りの間でパチンと割れば、下組と上組が生じます。生じた2片を自然数(cmの目盛り)でみれば2つの半開区間、有理数(mmの目盛り)でみれば2つの開区間、実数(定規の材質)でみれば半開区間と開区間になります。
クランチチョコを2つに割れば、粒々すべてはいずれかの元
ただ、実数が「ベタっと」並んでいるイメージが適切なのかはわかりません。実数の内側から実数を見ている私たちには判断しにくいです。実数の外側から実数を見ると、わかるのかもしれません…
こちらの動画の32分くらいから、面白いです。
https://www.youtube.com/watch?v=DM3kMk9c31Q
https://www.youtube.com/watch?v=DM3kMk9c31Q