※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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前回の記事で距離空間(X, d)を導入しました。距離空間を定義すると次のようになります。
集合Xから取り出した要素x_1, x_2, x_3の距離 d が次の条件を満たすとき、これを距離空間という。
- すべての x_1, x_2 について、0\leq d(x_1, x_2)<\infty
- x_1=x_2 と d(x_1, x_2)=0 は同値である
- x_1\neq x_2 であるとき d(x_1, x_2)=d(x_2, x_1)
- d(x_1, x_3)\leq d(x_1, x_2)+d(x_2, x_3)
条件1は、私たちの日常感覚に合う条件です。距離は負値を取らず、また無限大にもなりません。条件2は、点の長さを0と定義するということです。条件3は前回の例で
d-c=28.9(cm) c-d=-28.9(cm)
と、単純な引き算では異なる値になってしまうことをみました。これは距離の定義を満たしません。定義を満たすには、d-c と c-d の値が等しくなければなりません。このために絶対値という測りかたを導入しました。絶対値で測ると値は同じになり、距離の定義を満たします。
|d-c|=|c-d|=28.9(cm)
条件4は三角不等式といわれるものです。太っちょの三角定規📐の3辺の長さを例に考えましょう。斜辺は底辺と高さの和より短いです。
\sqrt{2}(斜辺)\leq 1(底辺)+1(高さ)
のっぽの三角定規の3辺の長さも、この条件を満たします。
2(斜辺)\leq 1(底辺)+\sqrt{3}(高さ)
距離一般がこの不等式を満たすというのが条件4です。
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距離空間(X, d)を分析するときによくみる用語をいくつか紹介します。以下、xはXの要素とします。
点
距離空間にある距離0の要素を点(point)といいます。距離0の定義は
x_1=x_2\iff d(x_1, x_2)=0
この定義にしたがって丁寧に書くと、x_1, x_2の座標をともに書くべきなのかもしれませんが、表記する座標が全く同じなので、x_1またはx_2の座標のいずれか(どちらを書いても同じですが)を表記します。
数直線上の点の位置は、1つの数で表します。たとえば、数直線上の1に置かれた点の位置はp=1と表記します。座標平面上の点の位置は、2つの数の順序組で表します。たとえば、原点から東北へ\sqrt{2}だけ離れたところに置かれた点の位置はP(1, 1)と表記します。3次元空間内の点の位置は、3つの数の順序組で表現します。たとえば、原点から東北かつ上方45^{\circ}へ\sqrt{3}だけ離れたところに置かれた点の位置は P(1, 1, 1)と表記します。
一般に、n 次元空間内の点の位置は n個の数の順序組(n-tuple)で表します。
点列
点を並べた整列集合を点列(sequence of points)といいます。これまで紹介した数学の用語で記述すると、自然数\mathbb{N}から整列集合である点への順序同型写像を点列といいます。数直線上の数列は数が並んだものですが、それをn 次元空間に拡張した点列は n 次元ベクトルが並んだものです。一般に、点列を次のように表記します。xが太字になっているのは、それぞれの\boldsymbol{x}がベクトルであることを強調するためです。
\{\boldsymbol{x}_j\}=\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2, \boldsymbol{x}_3, …
数字をふつうの太さで、ベクトルを太字で表記することが望ましいのですが、太字が多くなると読みづらくなる面もあります。そこで、このブログでは点の座標など、ベクトルであることが明らかなときには太字ではなく、ふつうの太さの文字で表記します。たとえば、次のように表記します。
\{\boldsymbol{x}_j\}=x_1, x_2, x_3, …
部分列
点列の要素の一部を取り出し、順序を保ちながら生成した点列を部分列(subsequence)といいます。たとえば、自然数\mathbb{N}から偶数だけ抜き出して\{2, 4, 6, 8, …\}と順序を保ちながら並べたものは部分列です。
収束列
点列の十分後ろにゆくと、点の位置がほとんど動かなくなることがあります。このような点列を収束列といいます。点列がx^*に向かう収束列であるとは
\lim_{j\rightarrow\infty}d(x_j, x^*)=0
x^*に向かう収束列は、他の点には向かいません。これを収束の一意性といいます。
コーシー列
収束列の条件を緩めたものにコーシー列(Cauchy sequence)があります。収束列と同じように値がどんどん近づいてゆくイメージですが、収束列では点列があらかじめ定めた点に向かうのに対して、コーシー列では点列どうしの距離が近づいてゆく感じになります。距離空間(X, d)内の点列がコーシー列であるとは
\lim_{j, k\rightarrow\infty}d(x_j, x_k)=0
ある点列が収束列であればコーシー列です。さらに、コーシー列であれば有界な点列です。よって次のような関係が成り立ちます。
収束列\subset コーシー列 \subset 有界列
開球と閉球
開区間を概念拡張したものを開球(open ball)といいます。数直線上の開区間 (-1, -1)を2次元平面に拡張すると、中心(0, 0)、半径1の縁が開いた円になります。さらに、3次元空間に拡張すると中心 (0, 0, 0)、半径1の表面が開いた球になります。距離空間では3次元をイメージした語を用いますので、こうしたものを開球といいます。球の中心は0でなくても構いません。一般に、Xの要素であるx_0を中心とする半径 r の開球は、次のように表記します。
B_X(x_0, r)\equiv\{x\in X | d(x_0, x)<r\}
「球」というのは表現上のたとえです。数直線上の距離を考えるとき、開球は球ではなく区間です。平面上の距離を考えるとき、開球は球ではなく円です。3次元空間内の距離を考えるとき、開球は文字どおり球になります。
また、開球と対をなす閉球(closed ball)もあります。これは縁が閉じた球です。すなわち、不等号を等号付き不等号に代えたものです。
B_X(x_0, r)\equiv\{x\in X | d(x_0, x)\leq r\}
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これらの用語はいずれも分析に不可欠なツールです。折にふれ確認しましょう。