※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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2点間の距離を応用すれば、点と集合の距離や集合と集合の距離も測れそうです。また、集合の幅のようなもの(集合の直径)も測れそうです。今回は、これらの測りかたを紹介します。以下はすべて距離空間 $(X, d)$についての話であり、$x$は$X$の要素、$A, B, E$は$X$の非空な部分集合とします。
点と集合の距離
まず、点と集合(要素の集まり)の距離を考えましょう。直感的には、点と集合内の各要素の距離のうち、最も短いものが点と集合の距離になりそうです。日常会話で「コンビニまでの距離」と言うとき、最寄りのコンビニまでの距離ですよね。距離空間では、この直感どおりに点と集合の距離を定義します。点$x^*$と集合$E$の距離は
$$d(x^*, E)=\inf\{d(x^*, x)|x\in E\}$$
$\inf$は下限です。高校のとき、点と線の距離という単元がありました。あのとき、点から線に向かって垂線(直角に交わる線)を引いたのは、点から線という集合への最短距離を測るためでした。
$x^*$が集合$E$の内点または境界点であるとき、点と集合の距離は0です。
集合と集合の距離
つづいて、集合と集合の距離を測りましょう。距離空間では、集合$A$と集合$B$の距離を次のように測ります。
$$d(A , B)=\inf\{d(a, b)|a\in A, b\in B\}$$
これも、最寄りの距離です。コンビニとドラッグストアの距離というとき、コンビニの隣にドラックストアが立地していれば、その距離を測りましょうということです。これも直感に合います。わざわざ目の前のコンビニと隣町のドラッグストアの距離を測らないですよね。
集合$A$と$B$に共通部分があるとき($A\cap B\neq\varnothing$)、2つの集合の距離は0とします。商業施設の中にコンビニとドラッグストアが併設されているとき、どちらも商業施設内にあるという意味では、距離が0だと言えます。
集合の直径
集合の直径についても考えることができます。$X$の有界な部分集合$E$の直径(diameter)を、その要素$x_1, x_2$で表すと
$$diam(E)=\sup\{d(x_1, x_2)|x_1, x_2\in E\}$$
$\sup$は上限です。集合が楕円のような形をしているとき、長径(長い方の「直径」)を集合の直径とする、というイメージです。
$E$が1点集合(要素が1つだけ)であるとき、直径は0です。
ここまでの知識を用いると、集合と集合の距離、そして集合の直径の関係を表すことができます。2つの集合$A$と$B$について
$$diam(A\cup B)\leq diam(A)+diam(B)+d(A, B)$$
上でも書きましたが、$A$と$B$に共通部分があるとき$d(A, B)=0$になります。$A$と$B$に共通部分がないときには$d(A, B)>0$になります。
距離の写像の連続性
ここまで、点は動かないと仮定していました。点が連続に動くとき、点 $x$ と集合$E$の距離を次のような連続写像とみなすことができます。
$$f:X\rightarrow \mathbb{R}^+$$
ここで用いる連続の概念はリプシッツ連続です。すなわち、写像 $f$ は次の条件を満たします。
$$d(f(x_1), f(x_2))\leq K\cdot d(x_1, x_2)$$
この不等式が成り立つことを示しましょう。すべての$x\in E$について、点と集合の距離の定義から、次の不等式が成り立ちます。
$$d(x_1, E)\leq d(x_1, x)$$
これは、点$x_1$と集合$E$の距離は、2点$x_1$と$x$の距離のうち最短のものであるという、点と集合の距離の定義からわかります。つづいて、右辺に三角不等式を適用すると
$$d(x_1, E)\leq d(x_1, x)\leq d(x_1, x_2)+d(x_2, x)$$
真ん中の式を除いて、最左と最右の式に注目します。
$$d(x_1, E)\leq d(x_1, x_2)+d(x_2, x)$$
この式は任意の$x$について成り立ちます。$\inf d(x_2, x)=d(x_2, E)$であることに注意して、$d(x_2, x)$に$d(x_2, E)$を代入して左辺に移項すると
$$d(x_1, E)-d(x_2, E)\leq d(x_1, x_2)$$
$x_1$と$x_2$を入れ替えてもこの関係は成り立つので
$$d(x_2, E)-d(x_1, E)\leq d(x_2, x_1)$$
距離の定義から$d(x_1, x_2)=d(x_2, x_1)$が成り立つことに注意して、上の2式をまとめると
$$|d(x_1, E)-d(x_2, E)|\leq d(x_1, x_2)$$
左辺の絶対値は距離の尺度とみなせます。すなわち
$$d(f(x_1), f(x_2))=|d(x_1, E)-d(x_2, E)|$$
すると
$$d(f(x_1), f(x_2))=|d(x_1, E)-d(x_2, E)|\leq d(x_1, x_2)$$
ここで、すべての$\varepsilon>0$について$d(x_1, x_2)<\varepsilon$とすると
$$d(f(x_1), f(x_2))\leq d(x_1, x_2)<\varepsilon$$
$d(x_1, x_2)$は$\varepsilon$に上から抑えられ、$d(f(x_1), f(x_2))$は $d(x_1, x_2)$に上から抑えられることがわかりました。これは、リプシッツ連続の条件そのものです。