※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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今回は、ユークリッド空間が距離空間であることを確認します。
コーシー=シュワルツの不等式
準備として、まずコーシー=シュワルツ(Cauchy-Schwarz)の不等式を紹介します。この不等式にはさまざまな相貌がありますが、ここで使うのに十分な次式を用います。
$$\left(\boldsymbol{ab}\right)^2\leq\boldsymbol{a}^2\boldsymbol{b}^2$$
ここで、$\boldsymbol{a}$ と $\boldsymbol{b}$ はともにベクトルです。この不等式が成り立つことを大まかにみましょう。以下、見やすくするために $a$ と $b$ は太字にしません。少しトリックめいていますが、実数 $t$ に関する式$(at+b)^2$を作り、展開してみます。
$$(at+b)^2=a^2t^2+2abt+b^2$$
左辺は実数を2乗していますので非負です。また、$a\neq 0$であるとき、下に凸な2次関数になります。これらのことに注意して判別式を書くと
$$D=(2ab)^2-4a^2b^2\leq 0$$
$$(ab)^2\leq a^2b^2$$
不等式が得られました。$a=0$であるときも、この式は等式として成り立ちます。
ユークリッド空間
幾何的な分析に有用な距離空間を、古代ギリシャの幾何学者ユークリッドにちなんでユークリッド空間(Euclidean space)といいます。この空間は、距離を測るために生成された$n$ 次元の実数空間$\mathbb{R}^n$です。
この空間内の距離の測りかたとしてひろく知られているのが、いわゆる2乗してルートをとる三平方の定理です。たとえば、座標平面上の原点と$P(1, 2)$の距離は
$$\sqrt{(1-0)^2+(2-0)^2}=\sqrt{5}$$
一般に、$\mathbb{R}^n$に置かれた2点$\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x'}$の距離は
$$d=\sqrt{(x_1-x'_1)^2+(x_2-x'_2)^2+…+(x_n-x'_n)^2}$$
距離の定義
この測りかたが距離の定義を満たしていることを確認しましょう。以前の記事に書いた距離の定義を再掲します。
集合$X$から取り出した要素$x_1, x_2, x_3$の距離 $d$ が次の条件を満たすとき、これを距離空間という。
- すべての $x_1, x_2$ について、$0\leq d(x_1, x_2)<\infty$
- $x_1=x_2$ と $d(x_1, x_2)=0$ は同値である
- $x_1\neq x_2$ であるとき $d(x_1, x_2)=d(x_2, x_1)$
- $d(x_1, x_3)\leq d(x_1, x_2)+d(x_2, x_3)$
これらの条件を満たしているか、1つずつ確かめましょう。
まず1つめですが、$d$ に入る数はすべて実数であり、そのすべてを2乗して足していますので、負値は取り得ません。よって$d$ は非負です。$d$ の値が無限に発散しないためには有界性を示さなければなりませんが、私の能力を超えます。ただ、無限の距離を持つものは、そもそも考慮の対象外とするのが自然です。
2つめは、同じ座標に置かれた2点の距離は0であり、距離が0であれば2点は同じ座標に置かれているということです。座標平面に置かれた2点 $P(1, 2)$と$Q(1, 2)$を例にしましょう。これら2点間の距離は、次のように0であることがわかります。
$$PQ=\sqrt{(1-1)^2+(2-2)^2}=0$$
この式の計算結果が0であるのは、ルートの中の各項の引き算の値がすべて0であるときだけです。そして、各項の引き算の値が0になるのは、各項の2つの数がまったく同じ値をとるときだけです。これは2点の座標がまったく同じであることを意味します。
3つめは、こちらからあちらへの距離と、あちらからこちらへの距離は同じであるということです。これはルートの中の各項が2乗されていることから明らかです。上でみた2点$O(0, 0)$と$P(1,2)$を例に式で確かめてみましょう。わざわざ式を書くまでもありませんが…
$$OP=\sqrt{(1-0)^2+(2-0)^2}=\sqrt{5}$$
$$PO=\sqrt{(0-1)^2+(0-2)^2}=\sqrt{5}$$
4つめはいわゆる三角不等式と呼ばれているものです。真っ直ぐゴールへ突き進む距離より、途中でどこかへ立ち寄る距離の方が長いという、これも単純明快なものです。上に掲げた不等式の左辺と右辺にユークリッド距離を代入してみましょう。
$$左辺=\sqrt{(x_1-x_3)^2} 右辺=\sqrt{(x_1-x_2)^2}+\sqrt{(x_2-x_3)^2}$$
それぞれ2乗すると
$$左辺=(x_1-x_3)^2 右辺=\left(\sqrt{(x_1-x_2)^2}+\sqrt{(x_2-x_3)^2}\right)^2$$
左辺を若干書き換えて展開すると
$$左辺=((x_1-x_2)+(x_2-x_3))^2=(x_1-x_2)^2+(x_2-x_3)^2+2(x_1-x_2)(x_2-x_3)$$
右辺を展開すると
$$右辺=(x_1-x_2)^2+(x_2-x_3)^2+2\sqrt{(x_1-x_2)^2}\sqrt{(x_2-x_3)^2}$$
左辺と右辺の違いは第3項だけです。よく見ると、左辺と右辺それぞれの第3項について、係数2を除いて2乗したものの比較はコーシー=シュワルツの不等式そのものです。すなわち
$$((x_1-x_2)(x_2-x_3))^2\leq(x_1-x_2)^2(x_2-x_3)^2$$
定義どおりに$左辺\leq 右辺$が示されました。2乗してルートをとる三平方の定理は距離空間の定義をすべて満たすことがわかりました。この測りかたをする距離空間をユークリッド空間といいます。