※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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前回は集合族の測度についてみました。今回は、σ加法族について紹介します。
本格的に確率を学びたいと思って専門書を開くと、たいがい1ページ目にσ加法族が登場します。私たちの大半は、この用語を見た瞬間に頭が真っ白になり、開いたばかりの本を閉じ、図書館の書棚にそっと返してしまいます。この段階をなんとか超えたいな、と思います。
べき集合
集合$A$の要素からなるすべての部分集合の集まりをべき集合(power set) といい、$2^A$と表記します。2の$A$乗と書くのは、$A$の要素の数が$A$個あるとき、べき集合の要素の数は$2^A$個存在するためです。
コイントスの結果、表が出ることを1、裏が出ることを2としましょう。これは、2つの要素からなる集合として表記できます。
$$A=\{1, 2\}$$
$A$のべき集合は
$$2^A=\{\varnothing, 1, 2, \{1, 2\} \}$$
確かに要素の数は$2^A=2^2=4$個あります。集合の要素の数が3なら8、4なら16の要素がべき集合にあります。
σ加法族
準備が整いましたので、σ加法族を定義します。集合$X$のべき集合 $2^X$を$\mathcal{F}$とおき、$A$を$\mathcal{F}$の任意の要素とします。このとき、次の条件を満たす$\mathcal{F}$をσ加法族(σ-field, σ-algebra)といいます。
- $\varnothing\in\mathcal{F}$
- $A\in\mathcal{F} \implies A^c\in\mathcal{F}$
- $\{\boldsymbol{A}_j\}\subset\mathcal{F} \implies \bigcup_{j=1}^{\infty}A_j\in\mathcal{F}$
1つめは、空集合が$\mathcal{F}$の要素であるということです。上のコイントスの例でも、べき集合の要素に空集合がきちんと入っています。
2つめは、これが$\mathcal{F}$の要素ならこれ以外も$\mathcal{F}$の要素だということです。コイントスの例では「表が出る:1」と「裏が出る:2」はともに$\mathcal{F}$の要素です。同様に「表か裏が出る: $\{1, 2\}$」と表も裏も出ない、すなわち「空集合:$\varnothing$」はともに$\mathcal{F}$の要素です。
3つめは、可算無限の集合列の要素すべてが$\mathcal{F}$の要素なら、その和集合も$\mathcal{F}$の要素だということです。コイントスの例は有限集合ですが、気持ちだけ眺めると…
$$\{\varnothing, 1, 2, \{1, 2\} \}$$
のすべての要素の和集合は$ \{1, 2\}$です。これは明らかに$\mathcal{F}$の要素です。
条件2と条件3を用いれば、$\bigcap_{j=1}^{\infty}A_j$も$\mathcal{F}$の要素だと確かめられます。条件2から、$A\in\mathcal{F}$なら$A^c\in\mathcal{F}$です。条件3から、その和集合も$\mathcal{F}$の要素です。すなわち
$$\{\boldsymbol{A}_j^c\}\subset\mathcal{F} \implies \bigcup_{j=1}^{\infty}A_j^c\in\mathcal{F}$$
再び条件2から
$$\left(\bigcup_{j=1}^{\infty}A_j^c\right)^c=\bigcap_{j=1}^{\infty}A_j\in\mathcal{F}$$
σ加法族は、測る場としてよい性質を持っています。コイントスの例では、表が出る確率、裏が出る確率、表か裏が出る確率、表も裏も出ない確率、起こりうる事象すべてを確率の計測対象にできます。確率を測る場として心地よいです。
確率などを測れる場という意味で、集合$F$から生成されたσ加法族$\mathcal{F}$を可測空間(measurable space)といい、$(F, \mathcal{F})$と表記します。確率論の専門書によく$(\Omega, \mathcal{F}, P)$と書いてありますが、これは可測空間を確率測度$P$で測ること意味しています。
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σ加法族の生成
もとの集合$F$からσ加法族を作成することもできます。集合$F$から最小のσ加法族を作成する作業を生成(generate)といいます。集合$F$から生成されたσ加法族を$\sigma(F)$と表記します。
上で用いたコイントスの例を少しだけ拡張してみましょう。コインを2回投げた結果は次の4とおりです。
$4=\{表, 表\}$
$3=\{表, 裏\}$
$2=\{裏, 表\}$
$1=\{裏, 裏\}$
それぞれに4から1までの番号をつけました。これらを集めた集合$F$は次のようになります。
$$F=\{1, 2, 3, 4\}$$
この集合から生成されるσ加法族$\sigma(\{1, 2\})$は
$$\sigma(\{1, 2\})=\{\varnothing, F, \{1, 2\}, \{3, 4\}\}$$
となります。これがσ加法族であることを確かめましょう。この記事のはじめに書いた3条件のうちの1つめは、空集合がσ加法族の要素であるということです。空集合は確かに$\sigma(\{1, 2\})$の要素です。
3条件のうちの2つめは、補集合がσ加法族の要素であるということです。ここまでで$\sigma(\{1, 2\})$の要素になっているのは$\{\{1, 2\}, \varnothing\}$です。これらの補集合はそれぞれ
$$\{1, 2\}^c \implies \{3, 4\}$$
$$\varnothing^c \implies F$$
確かにこれらも$\sigma(\{1, 2\})$の要素です。3条件のうちの3つめは、生成されたσ加法族のすべての要素の和集合が$\sigma(\{1, 2\})$の要素であるということです。
$$F=\varnothing\cup F\cup\{1, 2\}\cup\{3, 4\}$$
は明らかです。よって、3条件すべてを満たす$\sigma(\{1, 2\})$は集合$E$から生成されたσ加法族だといえます。
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とりかかりは、これくらいでいいかなと思います。ボレル集合族はあまりに壮大ですので…
ルベーグ測度の世界では零集合が決定的な役割を果たすように思います(志賀浩二『ルベーグ積分30講』pp.52-53)。おおげさかもしれませんが、虚数単位 $i$ と同じくらいの役割を果たしていそうです。そのうちだんだんみえてくるでしよう…