※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
* * *
前回は集合族の測度についてみました。今回は、σ加法族について紹介します。
本格的に確率を学びたいと思って専門書を開くと、たいがい1ページ目にσ加法族が登場します。私たちの大半は、この用語を見た瞬間に頭が真っ白になり、開いたばかりの本を閉じ、図書館の書棚にそっと返してしまいます。この段階をなんとか超えたいな、と思います。
べき集合
集合Aの要素からなるすべての部分集合の集まりをべき集合(power set) といい、2^Aと表記します。2のA乗と書くのは、Aの要素の数がA個あるとき、べき集合の要素の数は2^A個存在するためです。
コイントスの結果、表が出ることを1、裏が出ることを2としましょう。これは、2つの要素からなる集合として表記できます。
A=\{1, 2\}
Aのべき集合は
2^A=\{\varnothing, 1, 2, \{1, 2\} \}
確かに要素の数は2^A=2^2=4個あります。集合の要素の数が3なら8、4なら16の要素がべき集合にあります。
σ加法族
準備が整いましたので、σ加法族を定義します。集合Xのべき集合 2^Xを\mathcal{F}とおき、Aを\mathcal{F}の任意の要素とします。このとき、次の条件を満たす\mathcal{F}をσ加法族(σ-field, σ-algebra)といいます。
- \varnothing\in\mathcal{F}
- A\in\mathcal{F} \implies A^c\in\mathcal{F}
- \{\boldsymbol{A}_j\}\subset\mathcal{F} \implies \bigcup_{j=1}^{\infty}A_j\in\mathcal{F}
1つめは、空集合が\mathcal{F}の要素であるということです。上のコイントスの例でも、べき集合の要素に空集合がきちんと入っています。
2つめは、これが\mathcal{F}の要素ならこれ以外も\mathcal{F}の要素だということです。コイントスの例では「表が出る:1」と「裏が出る:2」はともに\mathcal{F}の要素です。同様に「表か裏が出る: \{1, 2\}」と表も裏も出ない、すなわち「空集合:\varnothing」はともに\mathcal{F}の要素です。
3つめは、可算無限の集合列の要素すべてが\mathcal{F}の要素なら、その和集合も\mathcal{F}の要素だということです。コイントスの例は有限集合ですが、気持ちだけ眺めると…
\{\varnothing, 1, 2, \{1, 2\} \}
のすべての要素の和集合は \{1, 2\}です。これは明らかに\mathcal{F}の要素です。
条件2と条件3を用いれば、\bigcap_{j=1}^{\infty}A_jも\mathcal{F}の要素だと確かめられます。条件2から、A\in\mathcal{F}ならA^c\in\mathcal{F}です。条件3から、その和集合も\mathcal{F}の要素です。すなわち
\{\boldsymbol{A}_j^c\}\subset\mathcal{F} \implies \bigcup_{j=1}^{\infty}A_j^c\in\mathcal{F}
再び条件2から
\left(\bigcup_{j=1}^{\infty}A_j^c\right)^c=\bigcap_{j=1}^{\infty}A_j\in\mathcal{F}
σ加法族は、測る場としてよい性質を持っています。コイントスの例では、表が出る確率、裏が出る確率、表か裏が出る確率、表も裏も出ない確率、起こりうる事象すべてを確率の計測対象にできます。確率を測る場として心地よいです。
確率などを測れる場という意味で、集合Fから生成されたσ加法族\mathcal{F}を可測空間(measurable space)といい、(F, \mathcal{F})と表記します。確率論の専門書によく(\Omega, \mathcal{F}, P)と書いてありますが、これは可測空間を確率測度Pで測ること意味しています。
* * *
σ加法族の生成
もとの集合Fからσ加法族を作成することもできます。集合Fから最小のσ加法族を作成する作業を生成(generate)といいます。集合Fから生成されたσ加法族を\sigma(F)と表記します。
上で用いたコイントスの例を少しだけ拡張してみましょう。コインを2回投げた結果は次の4とおりです。
4=\{表, 表\}
3=\{表, 裏\}
2=\{裏, 表\}
1=\{裏, 裏\}
それぞれに4から1までの番号をつけました。これらを集めた集合Fは次のようになります。
F=\{1, 2, 3, 4\}
この集合から生成されるσ加法族\sigma(\{1, 2\})は
\sigma(\{1, 2\})=\{\varnothing, F, \{1, 2\}, \{3, 4\}\}
となります。これがσ加法族であることを確かめましょう。この記事のはじめに書いた3条件のうちの1つめは、空集合がσ加法族の要素であるということです。空集合は確かに\sigma(\{1, 2\})の要素です。
3条件のうちの2つめは、補集合がσ加法族の要素であるということです。ここまでで\sigma(\{1, 2\})の要素になっているのは\{\{1, 2\}, \varnothing\}です。これらの補集合はそれぞれ
\{1, 2\}^c \implies \{3, 4\}
\varnothing^c \implies F
確かにこれらも\sigma(\{1, 2\})の要素です。3条件のうちの3つめは、生成されたσ加法族のすべての要素の和集合が\sigma(\{1, 2\})の要素であるということです。
F=\varnothing\cup F\cup\{1, 2\}\cup\{3, 4\}
は明らかです。よって、3条件すべてを満たす\sigma(\{1, 2\})は集合Eから生成されたσ加法族だといえます。
* * *
とりかかりは、これくらいでいいかなと思います。ボレル集合族はあまりに壮大ですので…
ルベーグ測度の世界では零集合が決定的な役割を果たすように思います(志賀浩二『ルベーグ積分30講』pp.52-53)。おおげさかもしれませんが、虚数単位 i と同じくらいの役割を果たしていそうです。そのうちだんだんみえてくるでしよう…