※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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距離空間$(X, d)$において、可算・稠密な部分集合があることを可分(separable)といいます。たとえば、実数には可算・稠密な有理数という部分集合がありますので、可分です(ベールのカテゴリー定理)。言い換えると、下式のように、部分集合の閉包(部分集合とその導集合の和)が全体集合になっているとき、可分といいます。
$$\mathbb{R}=\overline{\mathbb{Q}}=\mathbb{Q}\cup\mathbb{Q}^d$$
p-ユークリッド空間
$N$次元の実数$\mathbb{R}$の距離空間$(\mathbb{R}^N, d)$の可分性について考えます。ここで距離の測りかた$d_p$を次のように定義します。
$$d_p=\left(\sum_{n=1}^N|x_n-y_n|^p\right)^{1/p}$$
ここで、$p$は1以上の有限な実数です。$p$の値が無限大であるときには、各要素どうしの距離のうち最長のものを距離とします。
$$d_{\infty}=\left(\sum_{n=1}^N|x_n-y_n|^{\infty}\right)^{1/{\infty}}=\max_{1\leq n\leq N}|x_n-y_n|$$
$d_{\infty}$が$\max$関数になるのは、絶対値で測った最長の距離を無限大乗した値は、他の小さな値の無限大乗を圧倒(dominate)するためです。最長の距離以外のものは視界から消えるということです。
これらの距離空間はいずれも可分です。なぜかというと、実数は有理数 $\mathbb{Q}$と無理数(有理数の集積点、つまり有理数$\mathbb{Q}$の導集合の要素)の和集合だからです。任意の実数$x$について
$$x\in\mathbb{Q}\cup\mathbb{Q}^d$$
右辺は閉包に等しいので
$$\mathbb{R}=\overline{\mathbb{Q}}$$
これは可分の定義そのものです。
$l^p$空間
数列(sequence of numbers)とは、数を並べたものです。似たものに点列がありますが、点列は空間に置かれた点の集まりです。1次元の点列が数列です。
次の条件を満たす実数からなる数列$\{\boldsymbol{x}_j\}_{j=1}^{\infty}$を$l^p$空間といいます。
$$\sum_{j=1}^{\infty}|x_j|^p<\infty$$
この空間での距離の測りかた $d$ を次のように定義します。
$$d_p(\{\boldsymbol{x}_j\}_{j=1}^{\infty}, \{\boldsymbol{y}_j\}_{j=1}^{\infty})=\left(\sum_{j=1}^{\infty}|x_j-y_j|^p\right)^{1/p}$$
この数列空間も、上と同様の議論から可分です。
$l^{\infty}$空間
$l^p$空間の$p$を無限大にしたものを$l^{\infty}$空間といいます。この空間での距離の測りかた $d$ を次のように定義します。
$$d_{\infty}(\{\boldsymbol{x}_j\}_{j=1}^{\infty}, \{\boldsymbol{y}_j\}_{j=1}^{\infty})=\sup_{j\in\mathbb{N}}|x_j-y_j|$$
$l^{\infty}$空間内の集合$E$は可算ではなく、稠密でもありません。したがって $l^{\infty}$空間は可分ではありません。この証明のラフ・スケッチは次のとおりです(現時点の私の理解の範囲内です)。
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実数直線上の閉区間$[0, 1]$を例にとります。この区間内の数は複数の2進数展開で表すことができます。たとえば、0.5は
$$0.5=\frac{1}{2}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{0}{2^j}$$
と
$$0.5=\frac{0}{2}+\sum_{j=2}^{\infty}\frac{1}{2^j}$$
このことは、閉区間$[0, 1]$内の数を表す2進数展開の分子を数列に見立てたものの濃度は、閉区間$[0, 1]$の濃度以上であることを意味します。つまり
$$\aleph\leq|2進数展開の分子を数列に見立てたもの|$$
この不等式は、可分性の条件の1つである可算と矛盾します。
もう1つの条件は稠密ですが、これは集積点がとれるかどうかで判定します。閉区間$[0, 1]$から互いにごく近い2点$x, y$を取り出し、2進数展開します。$x$と$y$の値が異なるということは、2進数展開のいずれかの項の値が異なるということです。たとえば、第 $j$ 項の値だけが次のように異なるとしましょう。
$$xの第 j 項:\frac{1}{2^j} yの第 j 項:\frac{0}{2^j}$$
ここで分子だけ取り出すと1と0になります。したがって、$x, y$の距離を $l^{\infty}$で測ると、絶対値ですから1になります。この1は孤立点となり、集積点になりえません。これは、$x, y$を表す2進数展開の数列の$l^{\infty}$距離が稠密でないことを意味します。
可分の条件である可算も稠密も満たさないことから、数列空間$l^{\infty}$は可分ではないことがわかりました。
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証明の詳細はとても難しいです。また理解が進んだら戻ってきて、よりよい形になるよう加筆・修正したいと思います。