※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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数学者でない私たちにとっての測度のはなしは、終わりに近づいてきました。今回は単調収束定理と優収束定理を紹介します。
単調収束定理
ボレル集合$\mathcal{B}$の部分集合$E$上の可測な非負関数$f$を考えます。この関数の増加列$0\leq f_1\leq f_2\leq f_3, …$が$f$に収束するとき、次式が成り立つことを単調収束定理(monotone convergence theorem)といいます。
$$\int_{E}fd\mu =\lim_{j\rightarrow\infty}\int_{E}f_jd\mu$$
この定理はおおよそ次のように確かめられます。まず、関数列が単調増加で収束することから、任意の$f_j$の値は収束先以下となります。すなわち
$$f_j\leq f$$
となります。測度の単調性から、両辺を$E$の範囲でルベーグ積分しても不等号が保たれます。
$$\int_E f_j d\mu\leq \int_E f d\mu$$
さらに、$\lim_{j\rightarrow\infty}\sup f_j=f$より、左辺の上極限をとっても不等号が保たれます。
$$\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\int_E f_j d\mu\leq \int_E f d\mu$$
ファトゥの補題から
$$\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\int_E f_j d\mu\geq \int_E f d\mu$$
$\lim\inf\leq\lim\sup$に注意して2式をまとめると
$$\int_E f d\mu\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\int_E f_j d\mu\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\int_E f_j d\mu\leq \int_E f d\mu$$
最左と最右ではさみうちされていることから、これらはすべて等号で結ばれます。関数列が収束するということは
$$\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\int_E f_j d\mu =\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\int_E f_j d\mu =\lim_{j\rightarrow\infty}\int_E f_j d\mu$$
よって
$$\int_E f d\mu=\lim_{j\rightarrow\infty}\int_{E}f_jd\mu$$
有界収束定理と優収束定理
関数列が単調増加でないとき、追加の条件がないと単調収束定理のような結論は得られません。具体的には、優関数という積分可能な関数で関数列が上から抑えられるという条件を加える必要があります。積分可能な優関数によって上から抑えられている関数列の任意の要素$f_j$とその各点収束先である$f$は、いずれも積分可能な可測関数となります。
少しフォーマルに書くと、ボレル集合$\mathcal{B}$の部分集合$E$上の関数列の任意の要素の絶対値が優関数の値($F$)以下であるとき、すなわち
$$|f_j|\leq F$$
であるとき
$$\int_{E}fd\mu =\lim_{j\rightarrow\infty}\int_{E}f_jd\mu$$
が成り立つ、というのが有界収束定理です。有界収束定理における上限は定数ですが、これを異なる値を取りうる$f$という関数に置き換えたものを優収束定理(dominated convergence theorem)、またはルベーグの収束定理といいます。これらはある種、有界な数列は収束するという数の世界の大原則を関数の世界に拡張したものです。
ただ、証明の詳細等については込み入ります。現段階ではtoo muchですので、また機会があれば加筆したいと思います。ルージンの定理、エゴロフの定理、フビニの定理(豆腐の体積の易しい求め方)、ラドン・ニコディムの定理(条件付期待値の定式化)なども、はじめて学ぶ私たちには荷が重すぎますね…
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ほとんどいたるところ
測度論や確率論の本を読んでいると、ほとんどいたるところとか a.e. という表記をみかけます。これはalmost everywhereのことで、零集合を除いた測度が正の集合についてという意味です。ルベーグ積分では、関数の挙動が奇妙になるところを零集合に押し込み、それ以外のお行儀のよいところにだけ正の測度を与え、積分のベースにします。
リーマン積分との違いとして、リーマンは縦に切り、ルベーグは横に切るという、見た目の違いが強調されることが多いです。また、リーマン積分できない変な関数も積分できることが強調されることもあります。
こうした紹介は若干ミスリーディングに感じます。ルベーグは定義域の一部を零集合に押し込めるトリックを思いつき、このトリックによってより柔軟な測度の概念で積分を眺められるようになったことを強調すべきだと思います。これを、志賀浩二『ルベーグ積分30講』p.183は「リーマン積分からルベーグ積分への移行は、積分という観点に立ったとき、連続関数の '完備化' であったという見方もできるのである」と書いています。
高木貞治『解析概論』p.430は、「Lebesgueは一片の咒語 'ほとんど' をもって、彼の積分論に魅惑的な外観を与ええたのであった」と a.e. のことを評価しています。この一節は志賀浩二『ルベーグ積分30講』p.169にも引用されています。