※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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前回、σ加法族を紹介しました。今回はファトゥの補題を紹介します。これはとてつもなく難しいものですので、大まかなイメージを持てるところまでを目標にします。
収束と極限
数列の先のほうの値が変わらなくなるとき、収束する(converge)といいます。たとえば
2+\left(-\frac{1}{2}\right)^j
という数列を書き表すと
\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^1, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^3, …\right\}
この数列は、2を境に上下しながら限りなく2に近づいてゆきます。このとき、この数列は2に収束するといいます。数列には、収束せずに発散する(diverge)ものや振動したまま(oscillate)のものもありますがこの記事では有限な値に収束する数列について考えます。また、数列を集合に見立てたA_jはすべての j について可測とします。
上極限と下極限
数列が収束するとき、その数列の一部を抜き出して作成した部分列も収束します。そのようすをみるものを上極限といいます。上の数列を例にしましょう。もとの数列は
\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^1, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^3, …\right\}
これは2に収束します。この数列から偶数番の要素だけ取り出すと
\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^6, …\right\}
これは最小上界(上限)が上から2に向かい収束します。この数列から4の倍数番の要素だけ取り出すと
\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^8, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^{12}, …\right\}
これも最小上界(上限)が上から2に向かい収束します。このように、もとの数列から作成した部分列の収束先は、もとの数列の収束先と同じことを確かめられます。これは、各部分列の最小上界(上限)を集めてその極限をとる作業ですので、次のように表記できます。
a^*=\lim_{j\rightarrow\infty}\sup A_j
同様に、減衰曲線の下からの収束をみるときには、各周期の極小値からなる部分列を作り、そのようすをみるのが賢明です。たとえば、奇数番だけ取り出すと
\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^1, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^3, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^5, …\right\}
これは最大下界(下限)が下から2に向かい収束します。各部分列の最大下界(下限)を集めてその極限をとる作業は、次式のように表記できます。a_*は下極限です。
a_*=\lim_{j\rightarrow\infty}\inf A_j
上極限と下極限が存在するとき、次の式が成り立ちます。
\lim_{j\rightarrow\infty}\inf A_j\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\sup A_j
上極限a^*と下極限a_*が等しいとき、極限が存在するといいます。このとき、上の不等式は等号で成り立ちます。
集合の記法
集合の記法で上極限を表してみましょう。上の例を再び掲げると
A_1=\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^1, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^3, …\right\}
A_2=\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^6, …\right\}
A_3=\left\{2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^8, 2+\left(-\frac{1}{2}\right)^{12}, …\right\}
A_1の最小上界は2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2、A_2の最小上界は2+\left(-\frac{1}{2}\right)^2、A_3の最小上界は2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4です。これらのうち最小の2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4はA_3の要素ですが、A_1の要素でもあり、A_2の要素でもあります。すなわち
2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4\in A_1\cup A_2\cup A_3
であり、かつ
2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4\in A_1\cap A_2\cap A_3
また同様に
2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4\in A_2\cup A_3
であり、かつ
2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4\in A_2\cap A_3
さらに
2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4\in A_3
つまり、収束先の候補は、最小上界の候補となる集合をすべて集め、そのいずれにも入っている要素だということになります(簡単化のためにこのようになる部分列を作成しました)。集合の記法では、候補をすべて集めることを\bigcupで、いずれにも入っていることを\bigcapで表します。よって
収束先の候補=2+\left(-\frac{1}{2}\right)^4\in A_3\subset\bigcap_{j=1}^{3}\bigcup_{n=j}^{3}A_n
調べる集合の数を増やすにしたがい、収束先の候補が絞り込まれるイメージです。3を3より大きいJに一般化すると、候補はさらに絞られます。
A_J\subset\bigcap_{j=1}^{J}\bigcup_{n=j}^{J}A_n
測度の単調性から
\mu(A_J)\leq\mu\left(\bigcap_{j=1}^{J}\bigcup_{n=j}^{J}A_n\right)
Jを限りなく大きくすると(記述の煩雑さを避けるためにJを j に置き換えています)
\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\mu(A_j)\leq\mu\left(\bigcap_{j=1}^{\infty}\bigcup_{n=j}^{\infty}A_n\right)
下極限は、上極限と対称をなしますので(と簡単に書くとお叱りを受けますが…)
\mu\left(\bigcup_{j=1}^{\infty}\bigcap_{n=j}^{\infty}A_n\right)\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\mu(A_j)
※集合の記法はとても難しいです。こちらを参照しました。
こちらは英語ですが、とてつもなくhelpfulです。
ファトゥの補題
ここまでの結果をまとめると、数列の上極限と下極限を集合の上極限と下極限ではさみこむことができます。すなわち、\mu(\bigcup_{j=1}^{\infty}A_j)が有限であるとき、次の不等式が成り立ちます。
\mu\left(\bigcup_{j=1}^{\infty}\bigcap_{n=j}^{\infty}A_n\right)\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\mu(A_j)
\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\mu(A_j)\leq\mu\left(\bigcap_{j=1}^{\infty}\bigcup_{n=j}^{\infty}A_n\right)
これを極限の記法で書くと
\mu(\lim_{j\rightarrow\infty}\inf A_j)\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\mu(A_j)
\qquad\qquad\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\mu(A_j)\leq\mu(\lim_{j\rightarrow\infty}\sup A_j)
この結果をファトゥの補題(Fatou's lemma)といいます。(志賀浩二『ルベーグ積分30講』p.83)
「ファトゥの補題はルベーグ積分に関するもので、集合に関するものではない」と言われるかもしれません。この後少しずつ学ぶと見えてくると思いますが、ルベーグ=カラテオドリの測度はそのままルベーグ積分です。積分の記法で書くと(志賀浩二『ルベーグ積分30講』p.155は積分表記をファトゥの不等式と呼び、単調収束定理を用いて証明しています。詳細な証明は『数の落とし子』の方が説明されています。今の私にはとても追いきれませんでしたが… こちらもあわせて参照しました。)
\int\lim_{j\rightarrow\infty}\inf f_j d\mu\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\inf\int f_j d\mu
\qquad\qquad\leq\lim_{j\rightarrow\infty}\sup\int f_j d\mu\leq\int\lim_{j\rightarrow\infty}\sup f_j d\mu
積分は測度の一形態であるとは、ルベーグの慧眼です。