2024年5月7日

ジョルダン、ルベーグ、カラテオドリ(Lebesgue Measure)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前回までで、距離空間のシリーズをひとまず終えました。次のテーマとして測度とベクトル空間を候補にしたのですが、まずは測るということの理解を深めたいと思い、ルベーグ測度のシリーズにしました。


  • ルベーグ測度:測る
  • ベクトル空間:計算する


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私たちは、日常生活の中でいろいろなものを測っています。距離を測ったり、面積や体積を測ったり、重さを測ったり、個数を測ったり、気温を測ったり、高度を測ったり、濃度を測ったり、照度を測ったり、彩度を測ったり、比率を測ったり、確率を測ったりします。こうしたことができるのは、測りかたのルールがきちんと定まっているためです。

フランス人のルベーグ(Henri Léon Lebesgue:1875-1941)という人は、測りかたを深く探究した数学者です。1789年大革命でメートル法を提唱したフランスの伝統は、この人の理論に息づいているのでしょう。

こちらの記事によれば、メートル法以前には800とおりもの測りかたがあったようです…


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内測度と外測度
入り組んだ形をした敷地の面積を近似することを考えます。

まず、敷地の境界にかからないように有限個のタイルを敷地内側に敷き詰め、そのタイルの面積の総和で敷地面積を近似する方法があります。これを内測度(inner measure)といいます。もうひとつ、敷地の境界にほんのわずかだけかかるように有限個のタイルを敷き詰め、そのタイルの面積の総和で敷地の面積を近似する方法があります。これを外測度(exterior measure, outer measure)といいます。

内測度の上限外測度の下限が等しいことを可測(measurable)といいます。


ジョルダンの測度
敷き詰めるタイルが大きいとき、内測度は外測度より小さくなります。1m四方のタイルは、曲線を描く敷地にピッタリ敷き詰められず、隙間ができます。これを敷地境界にかかるように敷き詰めると、大きくはみ出します。

敷地へのフィット感を高めるために、タイルを50cm四方、10cm四方、5cm四方、1cm四方、…とどんどん小さくしてみましょう。とてつもなく変な形をした敷地でない限り、あるところで内測度の上限と外測度の下限が一致します。この可測な敷地の面積をジョルダン測度(Jordan measure)といいます。


ルベーグの測度
ジョルダンは、敷地に有限個のタイルを敷き詰めることを考えました。この考えを拡張して、敷地に可算無限個のタイルを敷き詰めることを考えたのがルベーグです。

敷き詰めるタイルの枚数を可算無限個へ拡張すると、ジョルダン不可測な敷地の面積も測れるようになります。ここでは、1m四方の正方形から、縦横ともに有理数の値をもつ可算無限個の点(有理点)をすべて除いた図形を例にします(志賀浩二『ルベーグ積分30講』p.41, 図13)。極小・無数の穴が空いた1m四方のメッシュのイメージです。

ジョルダンの方法にはタイルが有限個しかありませんので、可算無限個の穴すべてをカバーできません。ルベーグの方法にはタイルが可算無限個用意されていますので、穴すべてをカバーできます。極小のタイルでカバーした穴それぞれの面積を0とみると、それを可算無限個足し合わせた面積も0になります。すると、このとてつもなく変な形をした敷地の面積は1平方メートルと0の差、1平方メートルとなります。

$$外側から測った正方形の面積-可算無限個の穴の面積総計$$
$$=1-0=1$$

(志賀浩二『ルベーグ積分30講』p.99は、閉包と内点集合が一致しないときジョルダンの測度が機能せず、ルベーグ測度が有用になると指摘しています。)


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ルベーグの考えをまとめましょう。 $j(.), m_*(.), m^*(.)$をそれぞれ、ジョルダン測度、ルベーグ内測度、ルベーグ外測度とします。このとき集合$A$のルベーグ内測度$m_*(A)$は、ジョルダン可測な大枠$E$と、$E$から$A$を除いた部分($E-A$の外測度)の差となります。すなわち

$$m_*(A)=j(E)-m^*(E-A)$$

集合$A$の中心部からきわへ向かって外測度の上限をとり、$A$の外側を塗りつぶすと$A$が浮かび上がるイメージです。ルベーグ可測であるとき、内測度と外測度は等しくなります。よって

$$m^*(A)=j(E)-m^*(E-A)$$


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カラテオドリの可測
上式の右辺にある$m^*(E-A)$を移項して、左右入れ替えると

$$j(E)=m^*(A)+m^*(E-A)$$

$A$が可測であるとき$j(E)=m^*(E)$であり、また$A$が$E$の部分集合であることに注目すると$m^*(A)=m^*(E\cap A)$が成り立ちます。これらを代入すると

$$m^*(E)=m^*(E\cap A)+m^*(E-A)$$

ルベーグの外測度$m^*(.)$を$\mu(.)$に置き換えると

$$\mu(E)=\mu(E\cap A)+\mu(E-A)$$

すべての$E$についてこの式が成り立つとき、$A$は可測であるといいます。このように表現するのは、もともと$A$の可測性を示す式を変形して得られた式であるためです。上式は次のようにも書けます。$A^c$の可測性については次回説明します。

$$\mu(E)=\mu(E\cap A)+\mu(E\cap A^c)$$

この式は、$A$に含まれるものと含まれないものに$E$を二分して測った測度の和が、$E$の測度に等しいことを示しています。距離空間でもデデキントの定理、ベールのカテゴリー定理、可分性など全体を二分する話が出てきました。数学では「これとこれ以外」という分けかたが認識の基礎になっているようです。この可測の条件は、ルベーグと同じ世代のギリシャ人数学者、カラテオドリ(Constantin Carathéodory)が提示しました。それで、カラテオドリの条件といいます。


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カラテオドリ測度の性質
カラテオドリの外測度(exterior measure, outer measure)には次のような性質があります。

  1. $0\leq\mu(A)\leq\infty$
  2. $\mu(\varnothing)=0$
  3. $A\subset E \implies \mu(A)\leq\mu(E)$
  4. $A\subset\bigcup_{j=1}^{\infty}A_j \implies \mu(A)\leq\sum_{j=1}^{\infty}\mu(A_j)$ 

記号ばかりですので説明を加えます。まず1ですが、測度はマイナスの値をとりませんが、無限大まで大きな値はとりうるということです。

つづいて2ですが、これは空集合$\varnothing$を測った値を0とするということです。空集合とは、何も載っていないお皿🍽️のイメージです。お皿に何か載っている🍛のであれば、カロリーを測ったり、重さを測ったり、大きさを測ったりできますが、何も載っていなければ測りようがありません。そうしたものの値は0にするということです。条件1で測度の下限を0にしましたが、これは空集合の測度を0と定義することによります。

3は単調性(monotonicity)といわれる性質です。より大きなものにより大きな値を与えるという測度の性質です。たとえば、東京都より日本国のほうが大きいので、東京都の面積より日本国の面積のほうが広いと評価するということです。もし「東京都の面積より日本国の面積のほうが狭いです」と言われると、私たちは「えっ?」となってしまいます。「他も含めた敷地の面積はもとの敷地の面積より広くなる」という、私たちの常識的な感覚と合う測度の性質が単調性です。

4は劣加法性(subadditivity)といわれる特徴です。外測度を測るとき、敷き詰めるタイルが重なっていても構いません。また、境界にかかるようにタイルを敷き詰めます。それで、敷き詰めたタイルそれぞれの面積の合計は敷地面積以上になります。距離空間には三角不等式がありました。これは、ゴールに真っ直ぐ突き進むより、どこかに立ち寄ったほうが距離は長くなるという性質です。この特徴を、より一般的な測度の世界でも保つということです。

条件4を用いると、可測の条件を弱く表現できます。

$$\mu(E)\geq\mu(E\cap A)+\mu(E\cap A^c)$$

なぜかというと、逆向きの不等式($\leq$)は条件4そのものだからです。


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一般的理論に還元されてしまうと、数学は内容のない単なる美しい形式になってしまう。そしてそれはすぐに死にたえてしまう

(ルベーグの言葉を引用したメルツバッハ=ボイヤー『数学の歴史』からの引用を引用した志賀浩二『ルベーグ積分30講』数学30講シリーズ, 9, 朝倉書店, 1991, p.38)