※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。
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前回ファトゥの補題を概観したとき、上極限と下極限についておざなりにしてしまいました。この記事では、これらについて詳しくみます。
この記事は、以下のリンクを参照して作成しました。(理解の不十分さはすべて私の責任です。)
集合の積と和
複数の集合いずれにも入っている要素の集まりを集合の積といいます。集合の記法を用いて表すと、2つの集合AとBの積は
A\cap B
抽象的でわかりにくいので、具体例を挙げます。AとBをそれぞれ次のようにおきます。
A=\{1, 2, 3, 4\} B=\{3, 4, 5, 6\}
AとBいずれにも入っている要素を集めると
A\cap B=\{3, 4\}
複数の集合に共通する要素を抜き出していますので、積は共通部分ともいいます。これに対して、複数の集合のいずれかに入っている要素の集まりを集合の和といいます。2つの集合AとBの和は次のように表記します。
AとBのいずれかに入っている要素を集めると
A\cup B=\{1, 2, 3, 4, 5, 6\}
となります。積を表す記号\capはcap🧢とも読み、選ばれたものだけが入るイメージです。和を表す記号\cupはcup☕️とも読み、すべてが入るイメージです。
集合族の積と下極限
集合を並べたものを集合族といいます。たとえば、次のように集合を10個並べたものは集合族です。
\{A_1, A_2, A_3, …, A_{10}\}
ここでは、次の3つの集合からなる族を考えます。
A_1=\{3\} A_2=\{3, 4\} A_3=\{3, 4, 5\}
A_1はA_2に含まれ、A_2はA_3に含まれます。入れ子構造になっていますね。これを集合論の記法で書くと
A_1\subset A_2\subset A_3
となります。まずはA_2とA_3の積をみましょう。
A_2\cap A_3=\{3, 4\}
2つの集合のいずれにも入っているのは3と4です。5はA_2に含まれませんので、積集合の要素になりません。つづいて、A_1、A_2、A_3の積をみましょう。上で求めたA_2\cap A_3を用いると
A_1\cap(A_2\cap A_3)=\{3\}\cap\{3, 4\}=\{3\}
A_1とA_2\cap A_3のいずれにも入っているのは3だけです。4はA_1に含まれませんので、積集合の要素になりません。よって、3つの集合の積は
A_1\cap A_2\cap A_3=\{3\}
まとめると
式1 A_1\cap A_2\cap A_3=\{3\}
集合3つのとき要素は1つ、集合2つのとき要素は2つ、集合1つのとき要素は3つです。興味深いことに、積をとる集合の数が減るにしたがい要素の個数は増えます。式1, 2, 3の和集合をとると
\{3\}\cup\{3, 4\}\cup\{3, 4, 5\}=\{3, 4, 5\}
これを集合の記法を用いておしゃれに書くと
\bigcup_{j=1}^3\bigcap_{k=j}^3 A_k=\{3, 4, 5\}
なぜこんなにコンパクトに書けるのか、確かめましょう。まずj=1のとき、k は1から3まで1, 2, 3の値をとります。3つの集合の積をとりますので、式1になります。つづいてj=2のとき、k は2から3まで2と3の値をとります。後ろ2つの集合の積をとりますので、式2になります。 j=3のとき、k は3だけをとります。これはA_3そのものですので、式3となります。上式は式1, 2, 3の和集合ですので
\bigcup_{j=1}^3\bigcap_{k=j}^3 A_k=式1\cup 式2 \cup 式3
=\{3\}\cup\{3, 4\}\cup\{3, 4, 5\}=\{3, 4, 5\}
となり、表記法が正しいことがわかりました。ここでは集合が3つの例を考えましたが、集合族を集合列(可算無限個の集合を並べたもの)に拡張すると
\bigcup_{j=1}^{\infty}\bigcap_{k=j}^{\infty} A_k
この式の\bigcap_{k=j}^{\infty}は積をとることを意味しています。可算無限個ある集合のいずれにも入っている要素だけを取り出して作る集合は、ある種最小の集合とみることができます。解析の記法では、最小を下限(\inf)と書きます。
\bigcup_{j=1}^{\infty}は、下限を求める作業を1つめの集合から、2つめの集合から、3つめの集合から、…と無限に繰り返すことを意味しています。解析の記法では、添字を無限に飛ばすことを極限(\lim)といいます。よって、集合の記法は、次のように解析の記法に置き換えられます。
\bigcup_{j=1}^{\infty}\bigcap_{k=j}^{\infty} A_k=\lim_{j\rightarrow\infty}\inf A_j
j=3までの例では集合の要素が1つずつ増えていますが、jが100とか1000になると集合の要素は増えなくなり、そのまま変わらなくなるかもしれません。そのような行先の集合を下極限といいます。私たちが数列の下極限で持っていたイメージと比べて、かなり抽象度が高いですよね…
集合族の和と上極限
上のlim infと対照をなすのが、lim supです。先ほどと同じ3つの集合からなる族を例に考えます。
A_1=\{3\} A_2=\{3, 4\} A_3=\{3, 4, 5\}
まずはA_2とA_3の和をみましょう。和とは2つの集合のいずれかに入っている要素を集める作業ですので
A_2\cup A_3=\{3, 4, 5\}
この結果を用いて、A_1、A_2、A_3の和をとりましょう。
A_1\cup(A_2\cup A_3)=\{3\}\cup\{3, 4, 5\}=\{3, 4, 5\}
よって、3つの集合の和は
A_1\cup A_2\cup A_3=\{3, 4, 5\}
まとめると
式1 A_1\cup A_2\cup A_3=\{3, 4, 5\}
式2 A_2\cup A_3=\{3, 4, 5\}
式3 A_3=\{3, 4, 5\}
下極限のときとは異なり、Aが3つのとき、2つのとき、A_3だけのとき、すべてについて要素は3つです。式1, 2, 3の積をとると
\{3, 4, 5\}\cap\{3, 4, 5\}\cap\{3, 4, 5\}=\{3, 4, 5\}
これを集合の記法を用いて書くと
\bigcap_{j=1}^3\bigcup_{k=j}^3 A_k=\{3, 4, 5\}
この表記についても確認してみます。まずj=1のとき、k は1から3まで1, 2, 3の値をとります。3つの集合の和をとりますので、式1になります。つづいてj=2のとき、k は2から3まで2と3の値をとります。後ろ2つの集合の和をとりますので、式2になります。j=3のとき、k は3だけをとります。これはA_3そのものですので式3となります。上式は式1, 2, 3の積集合ですので
\bigcap_{j=1}^3\bigcup_{k=j}^3 A_k=式1\cap 式2 \cap 式3
=\{3, 4, 5\}\cap\{3, 4, 5\}\cap\{3, 4, 5\}=\{3, 4, 5\}
となります。集合族を集合列に拡張すると
\bigcap_{j=1}^{\infty}\bigcup_{k=j}^{\infty} A_k
この式の\bigcup_{k=j}^{\infty}は和をとることを意味しています。可算無限個ある集合のいずれかに入っている要素をくまなく取り出して作る集合は、最大の集合とみることができます。解析の記法では、最大を上限(\sup)と書きます。
\bigcap_{j=1}^{\infty}は、上限を求める作業を1つめの集合から、2つめの集合から、3つめの集合から、…と無限に繰り返すことを意味しています。解析の記法では、添字を無限に飛ばすことを極限(\lim)といいます。よって、集合の記法は、次のように解析の記法に置き換えられます。
\bigcap_{j=1}^{\infty}\bigcup_{k=j}^{\infty} A_k=\lim_{j\rightarrow\infty}\sup A_j
j=3までの数値例では、集合の要素が変わらないまま推移しています。もしこの状態が無限の先まで続くのであれば、これが集合の上極限になります。
下極限と上極限の関係
一般に、lim inf はlim supの部分集合です。
\lim_{j\rightarrow\infty}\inf A_j\subset\lim_{j\rightarrow\infty}\sup A_j
上に掲げたJ=3の数値例では、lim infの集合とlim supの集合が一致します。Jが無限大に向かうとき、lim infの集合とlim supの集合が一致するとき、それを極限集合(limit set)といいます。
\lim_{j\rightarrow\infty}\inf A_j=\lim_{j\rightarrow\infty}\sup A_j=\lim_{j\rightarrow\infty}A_j
極限は存在するときとしないときがありますが、上極限と下極限は必ず存在します(\pm\inftyを含めて考える場合)。それで、極限の有無を調べるツールとしてこれらの概念が使われます。