2024年4月30日

ベールのカテゴリー定理(Metric Space)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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今回はベールのカテゴリー定理についてみます。なんだかどんどん高度になり、クライマーズ・ハイの感じは否めませんが、文系の "だいたい" の話としてみてください。全編とおして完備な距離空間内の話です。


集合のカテゴリー
いくつかの用語を導入することから始めます。内点が取れない閉包を疎集合(nowhere dense set)といいます。そして、この和集合を痩集合(meagre set)、または第1類の集合といいます。これに対して、疎集合の補集合を稠密な開集合(dense open set)といい、痩集合の補集合(稠密な開集合の積集合)を非痩集合(nonmeagre set)、または第2類の集合といいます。痩せているかどうかが集合の名前になるのは面白いです。(meagerという綴りはアメリカ英語だと思います。)

ベール(Baire)という数学者は、完備な距離空間における集合を第1類と第2類に二分できると考えました。これがカテゴリー(category)という考え方です。


ベールのカテゴリー定理
ベールは、カテゴリーに関する次の定理を導きました。

完備な距離空間$(X, d)$内で、非痩集合は$X$について第2類である。

ほぼ定義にしか見えない定理です。ただ、逆は必ずしも真ならず、だそうです。あまりに抽象的で狐につままれた感じがします。ですが、要するにあれかこれか白か黒かという二分法で考えましょう、ということです。物事をカテゴリーで考えるとき、その有用性がわかります。どういうことかというと

$$痩集合=痩集合\cup 非痩集合$$

であれば、右辺の痩集合は自動的に非空集合になります。そして

$$非痩集合=痩集合\cup 非痩集合$$

であれば、右辺の非痩集合は自動的に非空集合になります。このように特徴を二分して、それぞれの特徴を持つカテゴリーに分類されるものが存在するか調べるときに使う感じになりそうです。

もうひとつ、実数直線を例に考えます。有理数は、実数直線上に疎に散らばっています。1つ1つの有理数は他のどの有理数ともつながっていません。それぞれが内点を持たない閉包です。よって、有理数は実数について第1類です。これに対して、開区間$(0, 1)$は実数について第2類です。なぜかというと、この区間は疎ではなく完備だからです。(測度0と正測度のものに集合を二分する、という感じでしょうか…)

節分のときの豆まきを思い浮かべましょう。和室の床(完備な距離空間)に撒かれた豆(点)は疎に散らばっています。足の踏み場もないほどぎっしり埋まることはありません。このような、床が見える状態は第1類です。

これに対して、和室に高級な絨毯を敷くと、その部分は床が見えなくなります。これは第2類です。

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今回はとても難しい話でした。また少し理解が進みましたら戻ってきてよりよいものにしたいと思います。


2024年4月29日

リプシッツ連続とバナッハの不動点定理(Metric Space)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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今回はリプシッツ連続とバナッハ=ピカールの不動点定理に触れます。これらのトピックスはとても高度ですので、詳細は専門家の動画やサイト、著作等をご覧いただければと思います。ここでは文系の "だいたい" で不動点の物語をお話しします。


リプシッツ連続
距離空間$(X, d)$のすべての要素 $x_1, x_2$ について次が成り立つ写像 $f:X\rightarrow X$ をリプシッツ連続(Lipschitz continuity)といいます。
 
$$d(f(x_1), f(x_2))\leq K\cdot d(x_1, x_2)$$

ここで$K$は非負の値をとる係数です。この係数は様々な値を取り得ますが、そのうち最小の値をリプシッツ定数といいます。この定数を$K_*$と表記しましょう。$K_*<1$のとき、$f(x_1)$と$f(x_2)$の距離が徐々に縮まります。それで、縮小写像(contraction mapping)といいます。


バナッハ=ピカールの不動点定理
完備な距離空間から1点を取り出し、得られた像が入力した点と同じである、すなわち

$$f(x^*)=x^*$$

であるような点 $x^*$を不動点(fixed point)といいます。バナッハ=ピカールの不動点定理(Banach-Picard fixed point theorem)は、不動点が得られる条件と不動点の一意性を次のように示したものです。

完備な距離空間$(X, d)$の写像 $f:X\rightarrow X$ が縮小写像であるとき、この写像の不動点 $x^*$はただひとつ存在する

まず、不動点が得られる条件として、写像が縮小写像であることを指定しています。これは上で説明しましたので繰り返しませんが、縮小写像であることは、距離が徐々に縮まる基礎的な条件です。

不動点が得られるもうひとつの条件として、完備な距離空間を指定しています。完備とは、距離の測定値が必ず見つかるということです。距離を測ろうにも、その値が距離空間の中になければどうしようもありません。空間内には、穴が1つたりともあってはいけません。あらゆる測定値を返せなければなりません。


J.M.ケインズは、その主著『雇用、利子及び貨幣の一般理論』の第23章第5節脚注3に、J. ベンサム "Defence of Usury"の一節を引用しています。Curtuisの沼として知られている一節です。

技芸の轍、すなわち発起人の足跡が刻まれた偉大な道のりは、クルティウスを飲み込んだような裂け目が無数にある広大な、そしておそらくは無辺の地平として考えられるかもしれない。裂け目が閉じるためには、その裂け目に落ちる勇者の犠牲がそれぞれの〔裂け目〕に要求されるが、いったんそれが閉じれば二度と開くことはない。それで、後からやってくる人たちにとって、その道のりははるかに安全になる。(訳文は筆者)


無数の開拓者の失敗によって陥穽が塞がれてはじめて、事業は安全になる、という文脈です。同様に、有理数にある穴すべてが無数の無理数によって完全に塞がれてはじめて、点列は安心して不動点に向かえます。


そしてもうひとつ、とてつもなく重要なのが不動点の一意性です。これをたとえると、集合という宇宙のどこから出発しても、ただひとつの点に行き着くということです。宇宙のすべてを引き寄せる、この上なく強力なブラックホールが宇宙にひとつだけある。フランスの詩人ラ・フォンテーヌは「すべての道はローマに通ず」という名言を遺しましたが、まさにそんな感じです。

宇宙のどこから出発しても答えはひとつというのはいかにも西洋的な、デカルト的な発想ではありますが、不動点定理が強力無比なツールであることは誰も否定できないでしょう。


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証明のスケッチ
バナッハ=ピカールの不動点定理の証明をスケッチします。詳細は専門書をご覧ください。まず、縮小写像を逐次的に巻き戻してみます。リプシッツ連続の不等式の$x_1$を$x_3$に、$x_2$を$x_4$に置き換えると

$$d(f(x_3), f(x_4))\leq K_*\cdot d(x_3, x_4)$$

ここで左辺の$f(x_3)$に注目します。$x_3=f(x_2)$と$x_2=f(x_1)$を逐次入れ子(マトリョーシカ:🪆)状に代入すると、$f$ の三重の合成関数になります。

$$f(x_3)=f(f(x_2))=f(f(f(x_1)))$$

これを$f\circ f\circ f\equiv f^3$と表記すると

$$f(x_3)=f^2(x_2)=f^3(x_1)$$

同様に$f(x_4)=f^4(x_1)$となります。これらを左辺に代入すると

$$d(f^3(x_1), f^4(x_1))\leq K_*\cdot d(x_3, x_4)$$

つづいて右辺に注目します。$x_3=f(x_2)$、$x_4=f(x_3)$を代入すると

$$d(f^3(x_1), f^4(x_1))\leq K_*\cdot d(f(x_2), f(x_3))$$

$d(f(x_2), f(x_3))\leq K_*\cdot d(x_2, x_3)$だから

$$d(f^3(x_1), f^4(x_1))\leq K_*\cdot d(f(x_2), f(x_3))\leq K_*\cdot K_*\cdot d(x_2, x_3)$$

この作業を再度繰り返し、最左辺と最右辺の不等式だけ残して書くと

$$d(f^3(x_1), f^4(x_1))\leq K_*\cdot K_*\cdot K_*\cdot d(x_1, x_2)$$

$x_2=f(x_1)$を代入すると

$$d(f^3(x_1), f^4(x_1))\leq K_*^3 d(x_1, f(x_1))$$

これで、すべての写像の入力が点列の1つめの点$x_1$になりました。ここで3を $j$ に一般化すると

$$d(f^j(x_1), f^{j+1}(x_1))\leq K_*^j d(x_1, f(x_1))$$

現状、2点は$j$ 番目と $j+1$ 番目でとなりあっていますが、2つめの点を1つ先に進め、$j+2$番目の点に変えます。すると

$$d(f^j(x_1), f^{j+2}(x_1))\leq K_*^j d(x_1, f(x_1))+K_*^{j+1}d(x_1, f(x_1))$$

2つめの点をもっと先の $k+1$ 番目まで進めると

$$d(f^j(x_1), f^{k+1}(x_1))\leq K_*^j d(x_1, f(x_1))+K_*^{j+1}d(x_1, f(x_1))+…+K_*^{k-1}d(x_1, f(x_1))+K_*^{k}d(x_1, f(x_1))$$

$$d(f^j(x_1), f^{k+1}(x_1))\leq K_*^j\sum_{i=1}^{k-j}K^{i-1}d(x_1, f(x_1))$$

$k$ が無限大に向かうと

$$d(f^j(x_1), f^{\infty}(x_1))\leq K_*^j\sum_{i=1}^{\infty}K^{i-1}d(x_1, f(x_1))$$

$$d(f^j(x_1), f^{\infty}(x_1))\leq K_*^j\frac{d(x_1, f(x_1))}{1-K}$$

$j$ が無限大に向かうと、$0\leq K_*<1$より$K_*^j$は0に向かうので、右辺は0に収束します(コーシー列)。この結果を式にすると

$$d(f^{\infty}(x_1), f^{\infty}(x_1))\leq0$$

$x_1$から始まる点列の行き着く先は$f^{\infty}(x_1)$で、ここから全く動かなくなることがわかりました。不動点を$x^*$とおくと

$$f^{\infty}(x_1)=f(x^*)=x^*$$

最後に一意性を示します。不動点が2つあると仮定し、これを否定する背理法です。$x^*$の他に$x'$というもうひとつの不動点があるとします。これら2点の距離とそれぞれの不動点を導く写像の距離は等しいので

$$d(x^*, x')=d(f(x^*), f(x'))$$

リプシッツ連続の不等式を右につけると

$$d(x^*, x')=d(f(x^*), f(x'))\leq K d(x^*, x')$$

真ん中を除き、最左辺と最右辺の不等式にして変形すると

$$d(x^*, x')\leq K d(x^*, x')$$

$$(1-K)d(x^*, x')\leq 0$$

$0<1-K<1$より、この不等式が成り立つのは$d(x^*, x')=0$のときだけであることがわかります。よって

$$x^*=x'$$

不動点の一意性が示されました。$\Box$


内点、開集合、閉集合、内点集合、集積点、導集合、閉包(Metric Space)

 ※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前回の記事の終わりに、収束を調べるときには定義域から孤立点を除くことをみました。今回は、孤立点や導集合など、分析に用いるツールをいくつか紹介します。ここでの説明は、すべて距離空間$(X, d)$に関するものであり、$x$は$X$の要素、$E$は$X$の部分集合、$\varepsilon$は任意の小さな正の数とします。


内点、外点、境界点、触点
$x$ とそのすぐそばの点がともに$E$の要素であるとき、$x$ は$E$の内点(interior point)といいます。開球を用いて内点を表記すると

$$B_X(x, \varepsilon)\subset E$$

$E$の補集合$E^c$の内点を外点(exterior point)といいます。開球を用いて外点を表記すると

$$B_X(x, \varepsilon)\subset E^c$$

内点でも外点でもない点を境界点(frontier point)といいます。数直線上の区間のきわ(よく白丸や黒丸で表されるはしっこ)に置かれた点、円の縁に置かれた点、球の表面に置かれた点は境界点です。$x$は$E$の内点、外点、境界点のいずれかになります。

内点と境界点を合わせたものを触点(adherent point)といいます。


開集合と閉集合
$E$の部分集合$E_j$の内点すべてからなる集合を開集合(open set)といい、開集合の補集合を閉集合(closed set)といいます。縁が開いた集合が開集合、縁が閉じた集合が閉集合です。数直線を例にとると開区間は開集合、閉区間は閉集合です。

空集合$\varnothing$と全体集合$X$は開集合かつ閉集合とします。これらは例外的なものとして覚えておきましょう。回りくどく「$E$の部分集合$E_j$」としたのは、次の内点集合との関連からです。


内点集合
$E$の最大の開集合を内点集合とか内部(interior)開核(open kernel)といいます。ここでも数直線を例にとります。$E=[1, 3]$であるとき、$E_1=(1, 2)$、$E_2=(1.5, 2.5)$、$E_3=(2, 3)$はいずれも$E$内の開集合ですが、最大の開集合ではありません。最大の開集合はこれらの和集合、$(1, 3)$です。これを内点集合といいます。

外点をすべて集めた集合を外点集合とか外部(exterior)といい、境界点をすべて集めた集合を境界点集合(frontier)といいます。お互いの積集合はすべて空集合になり、これら3つの和集合は全体集合になります。内点集合を $E^i$、境界点集合を$E^f$、外点集合を$E^e$とおいて表記すると

$$E^i\cap E^f=\varnothing E^i\cap E^e=\varnothing E^f\cap E^e=\varnothing$$
$$E^i\cup E^f\cup E^e=X$$

世界は、風船の中と表面と外からできている、という感じです。


有界
$E$が閉球に収まるとき、$E$は有界(bounded)であるといいます。再び数直線を例にします。開区間$E=(-1, 1)$は閉球$B_X(0, 2)$、すなわち閉区間$[-2, 2]$、に収まります。よって集合$E$は有界です。


集積点と孤立点
$x^*$に向かう収束列 $\{\boldsymbol{x}_j\}$が$E/x^*$の部分集合であるとき $x^*$を$E$の集積点(accumulation point)といいます。

よくわかならい、というのが正直なところだと思います。「なぜ$x^*$を除いた部分集合を考えるのか」と思います。ただ、集積点は幅広い集合に適用できるようによく考えられた概念であることに注意したいです。

見通しをよくするために数直線を例にします。開区間$(0, 1)$と2の和集合を$E$とおきます。$E$の要素である数直線上の点2のように、集合内の他の要素から孤立している要素を孤立点(isolated point)といいます。孤立点に向かう点列を$E$の要素で生成しようがありませんので、孤立点は集積点になり得ません。前にも書きましたが、ゴールが絶海の孤島であるとき、そこへ徒歩で向かえますか? ということです。集積点は、孤立点を集合から除外するのに使えます。

また、集積点は集合に属している必要はありません。引き続き開区間と点の和集合$E$を用います。0は$E$の要素ではありませんが、$E$の集積点です。なぜかというと、$E$の要素で0へ向かう点列を生成できるからです。$\{0.1^j\}$は$E$の部分集合であり、0へ向かう点列の例です。

幅広い集合のようすをつぶさに調べるツールとして集積点は有益です。


導集合と閉包
$E$の集積点すべてからなる集合を$E$の導集合(derived set)といい、 $E^d$と表記します。そして、$E$を部分集合とする最小の閉集合を$E$の閉包(closure)といい、$\overline{E}$と表記します。閉包はまた、触点すべてからなる集合でもあります。集合、導集合、閉包には次のような関係があります。

$$\overline{E}=E\cup E^d$$

再び数直線上の集合$E=(0, 1)\cup 2$を考えます。$E$の導集合は$[0, 1]$です。これは、孤立点である2は集積点ではなく、0と1は集合$E$に属していませんが$E$の集積点であるためです。$E$に属していない$E$の導集合の要素は$E$の境界点ですので、右辺は$[0, 1]\cup 2$となります。0から1までが閉区間に変わります。左辺の閉包は$[0, 1]\cup 2$ですので、上の等式は成り立つことが確かめられます。

$E$が閉集合であるときには、次の関係が成り立ちます。

$$E^d\subset E$$

$E$を閉集合$[0, 1]\cup 2$としましょう。導集合は孤立点を除き、境界点を含みますので、$E^d=[0,1]$となります。よって、$E^d$は$E$より要素2の分だけ小さい集合になります。

また、閉包は内点集合と境界点集合の和集合です。つまり

$$\bar{E}=E^i\cup E^f$$


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上限と下限、最大元と最小元
・開集合の場合
数直線の開区間$(0, 1)$を例にします。この開区間には最大元も最小元もありません。しかし、1という上限と0という下限はあります。

・閉集合の場合
数直線の閉区間$[0, 1]$を例にします。この閉区間には1という最大元と0という最小元があります。また、1という上限と0という下限もあります。

これをどう理解するかですが、集合の要素を内点、外点、境界点の3種に分けるとすっきりしそうです。孤立点がない集合について

  • 上界、下界:外点集合と境界点集合
  • 上限、下限:境界点集合
  • 開集合:内点集合
  • 閉集合:内点集合と境界点集合


三分法で眺めると整理しやすそうです。この点、切断により集合は必ず半開区間と開区間に二分されるという連続の公理(デデキントの定理)はあまり強調しすぎないほうがよいのかもしれません…


2024年4月28日

ε-n論法とε-δ論法(Metric Space)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前回の記事の終わりに収束という言葉を用いました。今回は収束を調べる重要なツールであるε-n論法とε-δ論法を紹介します。


ε-n論法
この論法は、点列の収束を調べるときに使います。ここでは前回紹介した収束列を例に概観します。まずは定義を振り返りましょう。距離空間 $(X, d)$内の点列が$X$の元 $x^*$に向かう収束列であるとは

 $$\lim_{j\rightarrow\infty}d( x_j, x^*)=0$$

これと同値な言明は

すべての $\varepsilon$ についてある順番 $\bar{j}$ が存在し、その順番以降のすべての点 $x_j$について $d(x_j, x^*)<\varepsilon$となる。

さらに、開球を用いた同値な言明は

すべての $\varepsilon$ についてある順番 $\bar{j}$ が存在し、その順番以降のすべての点 $x_j$について $x_j\in B_X(x^*, \varepsilon)$となる。

このように、収束の定義に $\varepsilon$ と $n$(ここでは空間の次元に $n$ を用いているので代わりに $j$ で表記しています)が登場することから、イタリックで書いたように点列の収束を調べる方法をε-n論法といいます。

なんだか難しそうですが、点列が小さな球に収まるのであれば、もうそれはどこへも行かずそこに止まるということです。収束とは、もうどこへも行かないということです。


ε-δ論法
この論法は、写像の収束を調べるときに使います。距離空間$(X, d_X)$から孤立点を除いた部分集合 $E$ から $(Y, d_Y)$への写像 $f$ が $x^*$で連続であるとは

 $$\lim_{x\rightarrow x^*}f(x)=f(x^*)$$

これと同値な言明は

すべての $\varepsilon$ について、$d_X(x, x^*)<\delta$ の像が $d_Y(f(x), f(x^*))<\varepsilon$ を満たすような $\delta$ が存在する。

さらに、開球を用いた同値な言明は

すべての $\varepsilon$ について、$x\in B_X(x^*, \delta)$ の像が $f(x)\in B_Y(f(x^*), \varepsilon)$ を満たすような $\delta$ が存在する

さらにコンパクトに表現すると

すべての $\varepsilon$ について、$f(E\cap B_X(x^*, \delta))\subset B_Y(f(x^*), \varepsilon)$ となる $\delta$ が存在する。

プログラミングのコードを書き慣れてくると、できるだけコンパクトに表現したくなりますよね。なんだかそんな感じです。収束の定義に $\varepsilon$ と $\delta$ が登場することから、イタリックで書いたように写像の収束を調べる方法をε-δ論法といいます。

これもとてつもなく難しそうですが、定義域の収束先である$x^*$を中心とする小さな球の中から点を取り出して得られる像は、像の収束先である $f(x^*)$ を中心とする小さな球に収まるということです。出所も行先も収束先のすぐそばというのは、収束の定義そのものです。

ここで定義域から孤立点を除いたのは、$x^*$が孤立点であるとき、そこへ向かう点列を作りようがないためです。絶海の孤島がゴールであるとき、そこへ徒歩で向かえますか? 無理ですよね。それで孤立点をあらかじめ除きます。

集合論の記法は、論理の穴を見つけるのにとても便利だと思います。これまで収束を調べるとき、孤立点について考えたことがありませんでした。

この記事はこちらの動画を参照しました。
こちらのpdfファイルもわかりやすいです。


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さらに理解を深めるには、内点、内点集合、集積点、孤立点、導集合、閉包などの用語を知らなければなりません。すべてつながっていることが見えてくると、学びが止まらなくなります。


距離空間の定義、点、点列、部分列、収束列、コーシー列、開球、閉球(Metric Space)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前回の記事で距離空間$(X, d)$を導入しました。距離空間を定義すると次のようになります。

集合$X$から取り出した要素$x_1, x_2, x_3$の距離 $d$ が次の条件を満たすとき、これを距離空間という。

  1.  すべての $x_1, x_2$ について、$0\leq d(x_1, x_2)<\infty$
  2.  $x_1=x_2$ と $d(x_1, x_2)=0$ は同値である
  3.  $x_1\neq x_2$ であるとき $d(x_1, x_2)=d(x_2, x_1)$
  4. $d(x_1, x_3)\leq d(x_1, x_2)+d(x_2, x_3)$

条件1は、私たちの日常感覚に合う条件です。距離は負値を取らず、また無限大にもなりません。条件2は、点の長さを0と定義するということです。条件3は前回の例で

$$d-c=28.9(cm)   c-d=-28.9(cm)$$

と、単純な引き算では異なる値になってしまうことをみました。これは距離の定義を満たしません。定義を満たすには、$d-c$ と $c-d$ の値が等しくなければなりません。このために絶対値という測りかたを導入しました。絶対値で測ると値は同じになり、距離の定義を満たします。

$$|d-c|=|c-d|=28.9(cm)$$

条件4は三角不等式といわれるものです。太っちょの三角定規📐の3辺の長さを例に考えましょう。斜辺は底辺と高さの和より短いです。

$$\sqrt{2}(斜辺)\leq 1(底辺)+1(高さ)$$

のっぽの三角定規の3辺の長さも、この条件を満たします。

$$2(斜辺)\leq 1(底辺)+\sqrt{3}(高さ)$$

距離一般がこの不等式を満たすというのが条件4です。


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距離空間$(X, d)$を分析するときによくみる用語をいくつか紹介します。以下、$x$は$X$の要素とします。


距離空間にある距離0の要素を点(point)といいます。距離0の定義は

$$x_1=x_2\iff d(x_1, x_2)=0$$

この定義にしたがって丁寧に書くと、$x_1, x_2$の座標をともに書くべきなのかもしれませんが、表記する座標が全く同じなので、$x_1$または$x_2$の座標のいずれか(どちらを書いても同じですが)を表記します。

数直線上の点の位置は、1つの数で表します。たとえば、数直線上の1に置かれた点の位置は$p=1$と表記します。座標平面上の点の位置は、2つの数の順序組で表します。たとえば、原点から東北へ$\sqrt{2}$だけ離れたところに置かれた点の位置は$P(1, 1)$と表記します。3次元空間内の点の位置は、3つの数の順序組で表現します。たとえば、原点から東北かつ上方$45^{\circ}$へ$\sqrt{3}$だけ離れたところに置かれた点の位置は $P(1, 1, 1)$と表記します。

一般に、$n$ 次元空間内の点の位置は $n$個の数の順序組(n-tuple)で表します。


点列
点を並べた整列集合を点列(sequence of points)といいます。これまで紹介した数学の用語で記述すると、自然数$\mathbb{N}$から整列集合である点への順序同型写像を点列といいます。数直線上の数列は数が並んだものですが、それを$n$ 次元空間に拡張した点列は $n$ 次元ベクトルが並んだものです。一般に、点列を次のように表記します。$x$が太字になっているのは、それぞれの$\boldsymbol{x}$がベクトルであることを強調するためです。

$$\{\boldsymbol{x}_j\}=\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2, \boldsymbol{x}_3, …$$

数字をふつうの太さで、ベクトルを太字で表記することが望ましいのですが、太字が多くなると読みづらくなる面もあります。そこで、このブログでは点の座標など、ベクトルであることが明らかなときには太字ではなく、ふつうの太さの文字で表記します。たとえば、次のように表記します。

$$\{\boldsymbol{x}_j\}=x_1, x_2, x_3, …$$


部分列
点列の要素の一部を取り出し、順序を保ちながら生成した点列を部分列(subsequence)といいます。たとえば、自然数$\mathbb{N}$から偶数だけ抜き出して$\{2, 4, 6, 8, …\}$と順序を保ちながら並べたものは部分列です。


収束列
点列の十分後ろにゆくと、点の位置がほとんど動かなくなることがあります。このような点列を収束列といいます。点列が$x^*$に向かう収束列であるとは

 $$\lim_{j\rightarrow\infty}d(x_j, x^*)=0$$

$x^*$に向かう収束列は、他の点には向かいません。これを収束の一意性といいます。


コーシー列
収束列の条件を緩めたものにコーシー列(Cauchy sequence)があります。収束列と同じように値がどんどん近づいてゆくイメージですが、収束列では点列があらかじめ定めた点に向かうのに対して、コーシー列では点列どうしの距離が近づいてゆく感じになります。距離空間$(X, d)$内の点列がコーシー列であるとは

 $$\lim_{j, k\rightarrow\infty}d(x_j, x_k)=0$$

ある点列が収束列であればコーシー列です。さらに、コーシー列であれば有界な点列です。よって次のような関係が成り立ちます。

$$収束列\subset コーシー列 \subset 有界列$$


開球と閉球
開区間を概念拡張したものを開球(open ball)といいます。数直線上の開区間 $(-1, -1)$を2次元平面に拡張すると、中心$(0, 0)$、半径1の縁が開いた円になります。さらに、3次元空間に拡張すると中心 $(0, 0, 0)$、半径1の表面が開いた球になります。距離空間では3次元をイメージした語を用いますので、こうしたものを開球といいます。球の中心は0でなくても構いません。一般に、$X$の要素である$x_0$を中心とする半径 $r$ の開球は、次のように表記します。

$$B_X(x_0, r)\equiv\{x\in X | d(x_0, x)<r\}$$

「球」というのは表現上のたとえです。数直線上の距離を考えるとき、開球は球ではなく区間です。平面上の距離を考えるとき、開球は球ではなく円です。3次元空間内の距離を考えるとき、開球は文字どおり球になります。

また、開球と対をなす閉球(closed ball)もあります。これは縁が閉じた球です。すなわち、不等号を等号付き不等号に代えたものです。

$$B_X(x_0, r)\equiv\{x\in X | d(x_0, x)\leq r\}$$


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これらの用語はいずれも分析に不可欠なツールです。折にふれ確認しましょう。


2024年4月27日

連続の公理(Metric Space)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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切片の復習
「集合のはなし」のシリーズで紹介した、切片について復習するところから始めます。集合$X=\{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7\}$の5に関する始切片は、5より前の(小さい)要素を並べた集合ですので

$$IS_X(5)=\{1, 2, 3, 4\}$$

始切片を生成する作業は、集合$X$を下組$\{1, 2, 3, 4\}$と上組$\{5, 6, 7\}$に分割する作業とみなすこともできます。


生じうる分割の種類
一般に、集合$X$を下組$A$と上組$B$に分割したとき、次の条件を満たすものを分割と呼ぶことにしましょう。

  •  $A\neq\varnothing$ かつ $B\neq\varnothing$
  •  $X=A\cup B$
  •  $A$から取り出したすべての要素 $a$ と$B$から取り出したすべての要素 $b$ について、$a<b$

下組$A$と上組$B$の特徴は、次のいずれかの組み合わせになります。

  1.  $A$に最大元があり、$B$に最小元がある
  2.  $A$に最大元があり、$B$に最小元がない
  3.  $A$に最大元がなく、$B$に最小元がある
  4.  $A$に最大元がなく、$B$に最小元がない


前節では、$A=\{1, 2, 3, 4\}$と$B=\{5, 6, 7\}$を得ました。$A$には最大元4があり、$B$には最小元5があります。この組み合わせはケース1に該当します。整列集合などを分割した結果はケース1になります。

整列集合ではない集合、たとえば全順序集合である有理数、を分割するといずれの結果になるでしょうか。有理数全体の集合$\mathbb{Q}$を、有理数0.5までとそれ以降に分割すると

$$A_{\mathbb{Q}}=(-\infty, 0.5]  B_{\mathbb{Q}}=(0.5, +\infty)$$

0.5は$A_{\mathbb{Q}}$に属し、$B_{\mathbb{Q}}$には属しません。$A_{\mathbb{Q}}$の最大元は0.5、$B_{\mathbb{Q}}$の最小元は、0.5以上で最小の有理数を指差確認できませんので、ないと評価します。この組み合わせはケース2に該当します。無理数を含む実数全体の集合$\mathbb{R}$を有理数0.5までとそれ以降に分割しても、結果はケース2になります。

$$A_{\mathbb{R}}=(-\infty, 0.5]  B_{\mathbb{R}}=(0.5, +\infty)$$

分割結果から有理数と実数の区別はつきません。同じものにみえます。ただ、集合の濃度は$|\mathbb{Q}|<|\mathbb{R}|$ですので、両者は明らかに異なります。分割結果からも有理数と実数の違いを特徴づけられるでしょうか。

ここで、実数の存在を知りつつ、有理数の集合だけを問題にするというアクロバティックな状況を考えます。話の見通しをよくするために有理数全体の集合$\mathbb{Q}$を、無理数$\sqrt{2}$を境に分割することを例にします。

$$A_{\mathbb{Q}}=(-\infty, \sqrt{2})  B_{\mathbb{Q}}=(\sqrt{2}, +\infty)$$

$A$と$B$いずれも開区間になりますので、ケース4に該当します。ケース4になるのは、境である$\sqrt{2}$が有理数ではなく無理数であるためです。無理数を含む実数全体の集合$\mathbb{R}$を$\sqrt{2}$までとそれ以降に分割すると、有理数とは異なる結果になります。

$$A_{\mathbb{R}}=(-\infty, \sqrt{2}]  B_{\mathbb{R}}=(\sqrt{2}, +\infty)$$

$A_{\mathbb{R}}$が半開区間になりますので、ケース2に該当します。結果が異なるのは、境である$\sqrt{2}$が有理数ではなく、実数であるためです。


連続の公理
これを有理数と実数の違いとしよう、というのが連続の公理です。つまり、上のケース2とケース3のいずれかだけが生じうる集合だけを連続とみなそう、ということです。言い換えると、実数を超える濃度の数の集合はないと仮定する、ということです。これは公理ですので、真偽を議論する性質のものではなく、こうしておくと後の話がしやすいという性質のものです。

この公理を認めれば、生じうる分割結果で数の種類を区分けできます。

自然数(整列集合):分割の結果、ケース1が生じる

有理数(全順序集合):分割の結果、ケース2, 3, 4が生じうる

実数(連続な全順序集合):分割の結果、ケース2または3が生じうる


実数の空間では、直角三角形の斜辺など、無理数が生じうる距離も測れます。実際に存在する長さを測れるようにしましょう、というのが連続の公理です。


デデキントの定理
連続な全順序集合である実数の空間では、上のケース2とケース3だけが生じうるというのがデデキント(Dedekind)の定理です。上に掲げたケース2とケース3の番号を振り直し、デデキントの定理として再掲します。実数を下組$A$と上組$B$に切断した結果は次のいずれかになります。

  1.  $A$に最大元があり、$B$に最小元がない
  2.  $A$に最大元がなく、$B$に最小元がある

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集合の外にあるものを使って集合を分割する、というのはかなりきわどいレトリックです。ただ、定規📏にたとえると、分からなくもないかなとも思います。定規に刻まれたcm単位の目盛りを0と自然数、mm単位の目盛りを有理数とすると、実数は目盛りを書き込んでいる定規の材質にあたります。プラスチックの定規をmm単位の目盛りの間でパチンと割れば、下組と上組が生じます。生じた2片を自然数(cmの目盛り)でみれば2つの半開区間、有理数(mmの目盛り)でみれば2つの開区間、実数(定規の材質)でみれば半開区間と開区間になります。

クランチチョコを2つに割れば、粒々すべてはいずれかの元

ただ、実数が「ベタっと」並んでいるイメージが適切なのかはわかりません。実数の内側から実数を見ている私たちには判断しにくいです。実数の外側から実数を見ると、わかるのかもしれません…

こちらの動画の32分くらいから、面白いです。
https://www.youtube.com/watch?v=DM3kMk9c31Q


2024年4月26日

集合から空間へ(Metric Space)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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「集合論のはなし」の次のシリーズについて、少し考えてみました。

  • 確率知りたい! → ルベーグ積分 → リーマン積分 → 関数
  • $L^2$空間!ヒルベルト空間! → まず距離空間 → やはり関数
  • フーリエ変換! → 複素解析 → まず実解析 → またまた関数

解析、代数、幾何という数学の三大分野のうち、現段階では解析っぽいものに興味があるようです。解析の第一歩として、距離空間を次シリーズに選定します。

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順序から距離へ
「集合論のはなし」では関係、中でも差を評価する順序や整列についてみました。線分の集合$X=\{a, b, c, d\}$を例に振り返りましょう。$a$ の長さは1cm、$b$ の長さは1cm、$c$ の長さは1.1cm、$d$ の長さは30cmとします。このとき、短い線分から順に並べると

$$a\leq b<c<d$$

これは順序で評価した不等式です。ただ、$b$ と $c$ の長さの差より $c$ と $d$ の長さの差の方がはるかに大きいので、上の不等式はかなりアバウトな印象を与えます。ネットスラングでは「差に差がある」ことを次のように表記するようです。

$$a\leq b<c<<<d$$

これで十分気持ちは伝わりますが、$<<<$ をもう少しうまく表したいところです。試みに長さの差(距離を測ってみます。$a$ と $b$、$b$ と $c$、$c$ と $d$ の長さの差はそれぞれ

$$b-a=0 (cm)$$
$$c-b=0.1 (cm)$$
$$d-c=28.9 (cm)$$

線分の長さの差に違いがあることがはっきりしました。「差の差」を知りたいとき、距離の概念は使えそうです。距離の概念は、ランドセルに30cm定規を差して登校する小学生がいるくらい身近なものでもあります。


距離の測りかた
線分の長さの差のうち、$d-c=28.9(cm)$に注目します。これは、線分 $d$ の長さから線分 $c$ の長さを引いたものです。もし、短い線分 $c$ の長さから長い線分 $d$ の長さを引いてしまうと、測定結果はマイナスになります。

$$c-d=-28.9(cm)$$

私たちは距離を負値で表記しません。非負値で表記します。必ず非負値を返してくれる測りかたに絶対値があります。一般に、2点 $x, y$ の距離を絶対値で測ると

$$|x-y|$$

もうひとつよく知られている距離の測りかたに差を2乗してルートをとる、いわゆる三平方の定理があります。たとえば、2つの格子点$(3, 0)$と$(0, 4)$の距離は

$$\sqrt{(3-0)^2+(4-0)^2}=\pm 5$$

ここでも非負の値、$+5$を取ります。この測りかたをユークリッド距離(Euclidean distance)といいます。こんなふうに距離を測ることができます。


集合から空間へ
ここまでで、順序の概念を少し洗練させて距離の概念を導入しました。では、距離を測れるのはどのような集合でしょうか。この問いについて考えるために、太っちょの三角定規 📐斜辺の長さ、すなわち2つの格子点$(1, 0)$と$(0, 1)$の距離を例に取ります。ユークリッド距離を測ると

$$\sqrt{(1-0)^2+(1-0)^2}=\sqrt{2}$$

$\sqrt{2}$は自然数でも、整数でも、有理数でもありません。実数に含まれる無理数です。身近に存在する距離を要素に持たない自然数、整数、有理数は、ユークリッド距離を測る対象になじみません(完備でない距離空間)。測定法と集合は、取りうる測定値のすべてが、その集合の要素であるような関係であるべきです。ユークリッド距離など、ふつうの測りかたで距離を測れる集合は、実数などに限られます(完備距離空間)。

小学校のとき、私たちは数直線上の距離を測りました。数直線は実数の全体$\mathbb{R}$を線に見立てたものです。中学では、垂直に交わる数直線から成る座標平面上の距離を測りました。座標平面は実数の直積$\mathbb{R}\times\mathbb{R}$を平面に見立てたもので、$\mathbb{R}^2$と表記します。高校では、互いに直交する3本の数直線から成る空間内の距離を測りました。3次元空間は実数の直積 $\mathbb{R}\times\mathbb{R}\times\mathbb{R}$を空間に見立てたもので、$\mathbb{R}^3$と表記します。私たちが学校で距離を測ったのは、あらゆる測定値が集合の中にあるような、注意深く選ばれたフィールド内でのことでした。

一般に、$d$という方法で距離を測る非空な集合$X$を距離空間(metric space)といい、$(X, d)$と表記します。



2024年4月23日

公理と選択公理(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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公理とは、議論の前提として、「あらかじめ正しいとしておくこと」です。数学でよくなされる証明は不要です。真であることが証明されない公理が数学にあるのはなぜかというと、これなしに議論しようがないためです。

「木」という文字を例に考えましょう。もし「木」という線分の組み合わせが🌳であったり、💦であったり、✈️であったり、人それぞれ異なるものを意味するのであれば、「木」は文字として使えなくなります。何がなんだか分からなくなります。

足し算を覚えたての小学1年生に「1+1は?」と尋ねると、素直な子は「2!」と元気よく答えますが、いたずら好きな子は「ひまわり!」とか「カレーライス!」とか、おどけて答えることがありますよね。そこは2にしましょうよ、というのが公理です。ともすると宇宙の果てまで飛んでゆく融通無碍な発想をpin downする、レールに乗せるのが公理です。(小学1年生や私たち文系はペアノの公理を知りませんが…)

すべてが自由だったり、すべてを疑ったりしてしまうと、何がなんだか皆目見当がつかなくなります。物事を疑い尽くしたデカルトも、「我思う、故に我あり」という公理に至りました。これは、「少なくとも自分がいる」と仮定しなければ、自分以外のものの存在も、関係も、体系も、何も考えられない。話の出発点として、「自分がいることは確かだと仮定しないとどうしようもない」ということです。

「我思う、故に我あり」は真ではないから公理にふさわしくないという人もいますが、この言明の真偽を論ずる意味はないです。なぜかというと、公理とは「あらかじめ正しいとしておくこと」だからです。仮にこれが正しいとして、何が言えるのかが問題なのであって、これが真か偽かはまた別問題である、というのが公理です。

日本人である私たちは、デカルトの公理を無批判に正しいと評価する必要はありません。ただ、地球の裏側には、これを了解事項として生活している人も多くいるだろうと思うだけです。そういう意味で、公理は文化といえるのかもしれません。


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集合論に選択公理というものがあります。選択とは、直積を構成する集合それぞれから要素を選ぶという意味です。この公理の主張は


非空集合$J$で添字付けられた集合族$\{X_j\}_{j\in J}$がある。このとき、すべての $j$ について$X_j\neq\varnothing$であるなら、$X_j$の直積は空集合ではない。つまり

$$\prod_{j\in J}X_j\neq\varnothing$$

ここで

$$\prod_{j\in J}X_j\equiv\left\{f: \{1, 2, ..., J\}\rightarrow\bigcup_{j\in J}X_j|\forall j\in J, f(j)\in X_j\right\}$$


$J$が有限集合であれば真であることが自明とも言えますが、無限集合になるとこれが自明ではなくなるようです。

このとてつもなく難しい公理を、文系の "だいたい" でたとえると…

大宇宙の星々に生息する宇宙人に「私が笛を「ピッ」と吹いたら、各星の代表者1人ずつ一斉に出てきてね。代表者の選び方はそれぞれの星にまかせるから」と伝える。


これができる、すなわち笛を吹いた瞬間に、大宇宙の星々から代表者がサッと立ち現れると仮定しましょうよ、というのがこの公理です。


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この公理を認めるとZorn(ツォルン)の補題というものが導け、ツォルンの補題から整列可能性定理というものが導けるようです。

Zornの補題:帰納的半順序集合には、少なくとも1つ極大元がある。

整列可能性定理:選択公理を認め、関係を適切に定めれば、どんな
        集合も整列集合にできる。

こうした言明が意義深いものであったり面白いものであったりするなら選択公理を認めたほうがよいのだと思います。実際、多くの数学者は選択公理を認めているとのことです。

ただこれは、真に数学者の世界です。裾野から霊峰富士を仰ぎ見るのと、頂まで登るのとでは天地雲泥の差があります。私たちが立ち入れる世界では毛頭ありません。頃合いと思いますので、富士の登山口が見えてきたこのあたりで、「集合のはなし」シリーズを閉じたいと思います。


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ここからは、自分向けのメモ(妄想)です。

選択公理は「あなたは無限の世界からいつの間にか有限の世界に至るメビウスの輪の上を歩いていますよ」という呼びかけのような気がします。

・選択公理がある世界:有限と無限の境は溶けない
           同時分散・並列処理ができる

・選択公理がない世界:有限と無限の境が溶ける
           同時分散・並列処理はできない

また、アレフゼロのアレフゼロ乗 $\aleph_0^{\aleph_0}$ を扱うか? という問題でもあるように感じます。


2024年4月21日

集合の関係:整列と比較定理(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前々回の記事から二項関係について考えています。一般に、$X$の直積の部分集合$R\subset X\times X$を二項関係といい、$X$の直積を変域とする命題関数 $(x_1, x_2)\in R$を $x_1 R x_2$と表記します。二項関係には同値、順序、整列などがあります。これらのうち、前回は順序についてみました。この記事では整列についてみます。


整列
全順序$(X, R)$のすべての非空部分集合に最小元があるとき、整列集合(well-ordered set)といいます。ここで非空部分集合とは、部分集合が空集合ではないことを意味します。空集合$\varnothing$とは、お皿に何も載っていないイメージ(🍽️)です。空ではない要素は、お皿に何か食べ物が載っているイメージ(🍛)です。したがって、非空部分集合とは、順序を考える対象がある部分集合ということになります。

自然数$\mathbb{N}=\{1, 2, 3, …\}$は整列集合です。なぜかというと、自然数は全順序であり、かつすべての非空部分集合に最小元があるからです。自然数の部分集合の例を3つ挙げます。

$$\{1\}  \{5, 6, 7, 8, 9, 10\}  \{100, 101, 102, 103, …\}$$

1つめの部分集合の最小元は1、2つめの部分集合の最小元は5、3つめの部分集合の最小元は100です。他の非空部分集合すべてにも最小元があります。よって自然数は整列集合です

自然数は1を始点としますが、整数$\mathbb{Z}$はマイナス無限大まで数の範囲が広がります。無始無終ですので始点がありません。したがって、とりかたによっては部分集合に最小元がないこともあります。よって整数は整列集合ではありません

有理数$\mathbb{Q}$と実数$\mathbb{R}$も整列集合ではありません。これについては、「集合の濃度」の記事で書いた次の文が参考になります。


「実数の数直線上で、1より大きい最小の数は何でしょうか。1.01でしょうか。1より大きく1.01より小さい1.001があるので違います。では1.001はどうかというと、これも違います。1より大きく1.001より小さい1.0001があるからです。では、実数の数直線上で1より大きい最小の数は何かというと、答えようがないですよね…」


実数から部分集合$(1, 2)$を取り出してみましょう。この部分集合は実数の開区間ですので、最小元を見つけられません。よって実数は整列集合ではありません。有理数についても同様の議論から整列集合でないことが確かめられます。

イメージとして、こんな感じでよいのではないでしょうか。

  • 半順序:枝分かれがある、ややこしい順番がついた集合(支線がある路線図など)
  • 全順序:1列にピシッと並ぶが、部分集合を取り出して「一番小さいのはこれ!」と指差し確認できない不思議な順番がついた集合(整数、有理数、実数など)
  • 整列 :1列にピシッと並び、部分集合を取り出して「一番小さいのはこれ!」と指差し確認できる綺麗な順番がついた集合(整数、有限な全順序集合など)


※「集合の切片、最大元と最小元、上限と下限、極大元と極小元」という記事で切片について説明しました。切片は整列集合に適用します。



整列集合の比較定理
整列集合に関する定理として、比較定理というものがあります。これは次のようなものです。

整列集合$(X, R)$、$(Y, S)$について以下のいずれか1つが成り立つ。

  • $(X, R)$と$(Y, S)$は順序同型
  • $(IS_X(\bar{x}), R)$と$(Y, S)$が順序同型となるような $\bar{x}$ が存在する
  • $(X, R)$と$(IS_Y(\bar{y}), S)$が順序同型となるような $\bar{y}$ が存在する


ここで、$IS_X(\bar{x})$は集合$X$の要素 $\bar{x}$ に関する始切片、$IS_Y(\bar{y})$は集合 $Y$の要素 $\bar{y}$ に関する始切片です。3つのうち1つも成り立たないことはなく、また3つのうち2つ以上が成り立つこともありません。3つのうちいずれか1つだけが成り立つという定理です。イメージだけ書くと、1つめは$X$と$Y$の濃度が等しい、2つめは$X$の濃度が$Y$より高い、3つめは $X$の濃度が$Y$より低い状況を描写したものと思われます。

「こんなの当たり前だよ…」と思われることも、数学ではとてつもなく丁寧に確かめます。正に「石橋を叩いて渡る」です。当たり前にみえることを早合点しないのが、上達の近道なのかもしれません。私たち文系は、気軽に「ロジック、ロジック」と言いますが、本当のロジックを知っている人の前で「ロジック」という言葉は気軽に使わない方がよいのかもしれません。


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集合の特徴を調べるツールとして、写像、濃度、関係(同値、順序、整列)があります。



集合の関係:順序と順序同型(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前回の記事から、二項関係について考えています。一般に、$X$の直積の部分集合$R\subset X\times X$を二項関係といい、$X$の直積を変域とする命題関数 $(x_1, x_2)\in R$を $x_1 R x_2$と表記します。二項関係には同値、順序、整列などがあります。これらのうち、前回は同値についてみました。この記事では順序についてみます。


順序
集合$X$の順序 $(\leq)$を調べる二項関係を$(X, \leq)$と表記します。順序には前順序、半順序、全順序があります。これらのうち前順序(preoder)とは、次の2条件を満たす二項関係です。

反射律:すべての$x$について、$x\leq x$が真
推移律:すべての$x_1, x_2, x_3$について、$x_1\leq x_2$が真かつ$x_2\leq x_3$
    が真であれば、$x_1\leq x_3$は真

なんだか難しそうですが、$X=\{2, 4, 6\}$を例に考えればすぐわかります。まず、反射律ですが

$$2\leq 2  4\leq 4  6\leq 6$$

これらの式は等号の意味で満たされています。つづいて推移律ですが

$$2\leq 4  かつ  4\leq 6  ならば  2\leq 6$$

明らかに$2\leq 4$は真、かつ$4\leq 6$は真です。そして$2\leq 6$も真です。難しそうにみえますが、順序は小学1年生から使っている概念です。上の2条件に加え、次に示す反対称律も満たす二項関係を半順序(partial oder)といいます。

反対称律:すべての$x_1, x_2$について、$x_1\leq x_2$が真かつ$x_2\leq x_1$が真
     であれば、$x_1=x_2$は真

同値の条件の1つに対称律がありましたが、半順序の条件の1つは対称律であることに注意しましょう。反対称律も難しくありません。たとえば、集合$X$から$x_1=2$、$x_2=4$を取り出してみましょう。このとき

$$2\leq 4  は真だが  4\leq 2  は偽$$

となります。異なる要素を取り出すと、不等式のいずれかが偽になってしまいます。2つの不等式ともに真であるためには $x_1=x_2$でなければなりません。たとえば、$x_1=4$、$x_2=4$を取り出してみましょう。このとき

$$4\leq 4  かつ  4\leq 4  ならば  4=4$$

と反対称律を満たします。反射律、推移律、反対称律に加え、完備律も満たす二項関係を全順序(total order)といいます。

完備律:$(X, \leq)$が半順序であるとする。このとき、すべての$x_1, x_2$
    について$x_1\leq x_2$が真、または$x_2\leq x_1$が真

全順序は鎖(chain)、線形順序(linear order)もいわれます。不等号を基準に、集合のすべての要素が綺麗に一列に並びます。呼び名には「順序に枝分かれを許さない」という強いメッセージが込められています。

「順序を前順序、半順序、全順序に分けるのはなぜですか」という問いには、「ド・モルガンの法則は完備律を満たす全順序に適用できるが、半順序と前順序には適用できない」と答えるのがよさそうです。前につく否定を外すとき、不等号の向きをひっくり返す操作ができる二項関係は全順序と整列です。この点は、数々の補題や定理を証明するとき、大きな意味を持ちます。

半順序であるが全順序ではない二項関係の例は込み入ります。関係$\leq$を集合の包含関係や自然数の割り切れる商などに読み替える例のようです。こちらの動画をご覧ください。

次の動画では半順序と全順序の違いについて、イメージできる解説をしています。いくつかの支流から本流に流れ込む川の流れや入れ子構造の集合を例にしています。

順序には、完全律や三分律といった条件もありますが、ここでは割愛します。詳細は『WIIS』の説明をご参照ください。


順序同型
2つの集合 $X=\{1, 2, 3\}$ と $Y=\{みかん, りんご, いちご\}$ について、順序 $(X, \leq)$ と $(Y, \leq)$ を考えます。ここで、$X$の$\leq$は小さい数から大きい数への順序、$Y$の$\leq$は一番安いみかん、二番目に安いりんご、三番目に安いいちごという果物の値段についての順序だとします。これらの順序集合を関係づける次のような写像 $f$ を与えます。

$1\stackrel{f}{\mapsto}みかん$
$2\stackrel{f}{\mapsto}りんご$ 
$3\stackrel{f}{\mapsto}いちご$ 

写像 $f$ は、$X$の一番目の要素の像が$Y$の一番目の要素、$X$の二番目の要素の像が$Y$の二番目の要素、$X$の三番目の要素の像が$Y$の三番目の要素になっています。この $f$ のような、2つの集合の順序を損ねない写像を順序を保つ写像といいます。

順序を保つ写像が全単射であるとき、順序同型写像といい、順序同型写像で関係づけられる2つの順序集合を順序同型(order isomorphic)といいます。一般に、順序集合$(X, R)$、$(Y, S)$、$(Z, T)$について、以下が成り立ちます。


  • $(X, R)$と$(X, R)$は順序同型
  • $(X, R)$と$(Y, S)$が順序同型であれば、$(Y, S)$と$(X, R)$も順序同型
  • $(X, R)$と$(Y, S)$が順序同型、かつ$(Y, S)$と$(Z, T)$が順序同型であれば、$(X, R)$と$(Z, T)$は順序同型


これらはそれぞれ同値関係の反射律、対称律、推移律のイメージです。



2024年4月20日

集合の関係:同値(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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前の記事で、集合の要素の始めとか終わり、集合の要素が小さいとか大きいという語を用いました。これらの表現は、集合の要素に何らかの関係(前後関係、大小関係など)があるという前提で用いています。この記事ではこの前提、すなわち集合の関係について考えます。

順序対と直積
2つの集合$X=\{1, 2, 3\}$と$Y=\{みかん, りんご, いちご\}$を例にとります。これらの集合から1つずつ要素を取り出して順に並べたものを順序対(order pair)といいます。たとえば、(1, みかん)のペアは順序対です。2つの集合から生成される順序対をすべて書き出したものを直積(Cartesian product)といいます。直積$X\times Y$の要素は次の9ペアです。

$(1, みかん), (1, りんご), (1, いちご),$
$(2, みかん), (2, りんご), (2, いちご),$
$(3, みかん), (3, りんご), (3, いちご)  $

順序対は、名が示すとおり順序が重要です。数字の集合$X$どうしの直積 $X\times X$を例に考えましょう。わかりやすくするために右の$X$をオレンジ色にします。$X\times$Xの要素をすべて書き出すと

(1, 1), (1, 2), (1, 3),
(2, 1), (2, 2), (2, 3),
(3, 1), (3, 2), (3, 3)

(2, 1)と(1, 2)は異なります。(3, 1)と(1, 3)、(3, 2)と(2, 3)も異なります。数字のペアだと前後入れ替えても同じに思えますが、順序対では順序にこだりますので、異なると考えます。


二項関係
直積から取り出した順序対に何らかの評価を下すことを二項関係(binary relation)といいます。数の集合$X=\{1, 2, 3\}$の直積から、要素を1つずつ取り出して順序対を作りましょう。

$$(1, 2)\in X\times X$$

ここで、1つめの$X$から取り出した要素1と2つめの$X$から取り出した要素2の関係を調べてみましょう。「1は2以下である」という大小関係は、真偽を確かめられますので命題です。この命題は明らかに真です。こうした真偽の判定は、直積の他の要素についてもできます。

一般に、$X$の直積の部分集合$R\subset X\times X$を二項関係といい、$X$の直積を変域とする命題関数$(x_1, x_2)\in R$を $x_1 R x_2$と表記します。二項関係には同値、順序、整列などがあります。この記事では同値についてみます。


同値
次の3条件を満たす二項関係を同値(equivalence relation)といい、記号$\sim$で表します。

反射律:すべての$x$について、$x\sim x$が真
対称律:すべての$x_1, x_2$について、$x_1\sim x_2$が真なら$x_2\sim x_1$も真
推移律:すべての$x_1, x_2, x_3$について、$x_1\sim x_2$が真かつ$x_2\sim x_3$が
    真なら$x_1\sim x_3$も真

同値の概念から同値類(equivalence class)商集合(quotient set)を定義できます。$x_1$の同値類$[x_1]$とは、$x$ のうち、$x_1\sim x$ が真であるものすべてです。そして、商集合$X/\sim$とは、$X$の同値類すべて、すなわち

$$X/\sim=\{[x]|x\in X\}$$

です。集合$X$を同値類で余りなく分割(割り算)するイメージですので「商」集合といいます。果物の集合

$$X=\{みかん, りんご, いちご, ぶどう, すいか, なし\}$$

の同値類と商集合を考えましょう。この集合の要素のうち、最も好きなものがみかんとりんご、次に好きなものがいちご、ぶどう、すいか、そして相対的に最も好きではないものがなしだとします。このとき、みかんを代表元とする同値類は

$$[みかん]=\{みかん, りんご\}$$

同様に、いちご、なしを代表元とする同値類は

$$[いちご]=\{いちご, ぶどう, すいか\}$$
$$[なし]=\{なし\}$$

です。商集合はこれら3つの同値類から成ります。確かにこれらの同値類で集合$X$のすべての要素を余りなくカバーしています。

$$X/\sim=\{[みかん], [いちご], [なし]\}$$


集合の切片、最大元と最小元、上限と下限、極大元と極小元(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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集合論に切片(segment)という用語があります。これは、1次関数のグラフの切片(intercept)とは異なります。1つの用語が複数の意味を持つとややこしくなりますので、翻訳するとき変えてほしかったです。英語では、segment:切り落とした後に残った部分との違いが明らかですので…

切片には、始切片(initial segment)終切片(final segment)があります。集合の後のほうを切り落とした後、残った前のほうを始切片といいます。集合の前のほうを切り落とした後、残った後ろのほうを終切片といいます。ここでは、=を含む広義の切片ではなく、=を含まない狭義の切片について考えます。

集合$X=\{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7\}$を例にとります。この集合の要素5に関する始切片$IS_X(5)$は、$X$の要素のうち5より前の(小さい)ほうを集めた集合ですので

$$IS_X(5)=\{1, 2, 3, 4\}$$

となります。この始切片の要素のうち、終わり(最大)の要素である4を最大元(maximum element)といいます。そして、始切片の外にあり、後ろ(上)から始切片を抑える要素の集合$\{5, 6, 7\}$を上界(upper bound)、上界のうち始め(最小)の要素である5を最小上界(least upper bound)とか上限(supremum)といいます。

同様に、この集合の要素3に関する終切片$FS_X(3)$は、$X$の要素のうち3より後ろの(大きい)ほうを集めた集合ですので

$$FS_X(3)=\{4, 5, 6, 7\}$$

となります。この終切片の要素のうち、始め(最小)の要素である4を最小元(minimum element)といいます。そして、終切片の外にあり、前(下)から終切片を抑える要素の集合$\{1, 2, 3\}$を下界(lower bound)、下界のうち終わり(最大)の要素である3を最大下界(greatest lower bound)とか下限(infimum)といいます。


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この記事では、要素が一列に並ぶ集合$X=\{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7\}$を例にしました。次回以降の記事で説明するように、集合の要素の関係には、分枝や合流を含むものもあります。こうした複雑な関係を絵にしたものがハッセ図です。

リンク先の図表に現れる、分枝内の順序はあるが、枝を越えて順序づけはしない、比較的緩やかな順序を半順序といいます。この半順序に適用するのが極小元(minimal element)極大元(maximal element)です。最小元と最大元がある半順序集合の各分枝に注目すると、それぞれの分枝の始めの要素が極小元、終わりの要素が極大元です。分枝ごとに極小元と極大元を考えることができますので、1つの集合に複数の極小元と極大元がありえます。大まかに、分枝ごとの行き止まりのイメージです。


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整列、半順序、全順序など、集合の要素の関係については次回以降の記事で詳しくみます。この記事で紹介した用語は今後も使いますので、その都度振り返りましょう。



2024年4月17日

カントール集合の濃度(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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カントール集合という不思議な集合があります。これは、線分を3等分して得られる短い3本の線分のうち、真ん中を除く左右2つの線分を残す作業を何度も繰り返して得られる、とてつもなく短い線分(点)の集まりです。

0から1までの閉区間を出発点に考えましょう。長さ1のこの線分を3等分すると、短い線分が3本得られます。これらのうち、真ん中の開区間 $(\frac{1}{3}, \frac{2}{3})$を捨て、左の閉区間$[0, \frac{1}{3}]$と右の閉区間$[\frac{2}{3}, 1]$を残します。

残した2本の線分それぞれをまた3等分して、真ん中の開区間を捨て、左右の閉区間を残します。残るのは$[0, \frac{1}{3^2}]$、$[\frac{2}{3^2}, \frac{3}{3^2}]$、$[\frac{6}{3^2}, \frac{7}{3^2}]$、$[\frac{8}{3^2}, 1]$という4本の線分です。

残した4本の線分それぞれをまた3等分して、真ん中の開区間を捨て、左右の閉区間を残すと、さらに短い8本の線分になります。分割の回数と分割後に残る線分の本数の関係は、次のようになります。

0回 → 1本 ($=2^0$)
1回 → 2本 ($=2^1$)
2回 → 4本 ($=2^2$)
3回 → 8本 ($=2^3$)

一般に、$n$回目の分割後、線分は$2^n$本になります。この作業を可算無限回繰り返して得られる、とてつもなく短い長さ「0」の線分(すなわち点)の集まりがカントール集合です。よって、カントール集合には$|2^\mathbb{N}|$個の要素があります。

$$カントール集合の濃度=|2^\mathbb{N}|$$

興味深いことに、カントール集合の濃度は実数の濃度に等しいです。

$$カントール集合の濃度=|2^\mathbb{N}|=|\mathbb{R}|$$

文系の私は、ペンキでべたっと塗りつぶすように数字がならんいでいるイメージで実数を捉えていましたが、どうでしょうか… 数と数の間に必ず別の数があるという、入れ子構造が無限に続くイメージの方が近いかもしれません。

稠密性のイメージはこれだと思うのですが、完備性はどうなんでしょうか。稠密性+完備性もこんなイメージで大丈夫な気もしますが、あるいはやはり「べたっと」のほうがいいのか、集合を内から見るときと、外から見るときの見え方の違いかもしれませんが…

私たちが日常触れる物質は手触りがしっかりしていて、確固たる実体があるように感じます。鉄はカチコチに固いですよね。しかし、実際には鉄の原子は核の周りを電子が飛び回るスカスカの構造をしているようです。それと似ているかな、と思います。

無限の入れ子構造をフラクタルといいます。こちらをご覧ください。次元が整数でないとき、とてつもなく複雑な入れ子構造(どれだけズームインしても変わらない"粗さ"のレベル)が発現するようです。

フラクタルの図形には、マンデルブロー集合やコッホ曲線、メンガーのスポンジなど面白いものがあります。下のリンクをご覧ください。(動画酔いしそうな人は用語に対応する画像を探してみてください。)


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ここで自然数と有理数の濃度が等しいことに注目します。べき集合がもとの集合を完備化する操作なのであれば、有理数のべき集合と有理数を完備化した実数は概念的に同値にみえますがいかがでしょうか…

$$|\mathbb{N}|=|\mathbb{Q}|$$
$$|2^\mathbb{N}|=|2^\mathbb{Q}|$$
$$|2^\mathbb{Q}|=|\mathbb{R}|$$

ただ、有理数を完備化したものが実数といいましても、二次方程式という操作で閉じているためには虚数を導入する必要がありそうですが、この点はどうなんでしょうか… また少し勉強したいと思います。


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集合論のことばでは、「完備化」のことを閉包をとるといいます。任意の実数$x$が有理数であれば、$x\in\mathbb{Q}$となります。$x$が無理数であれば、有理数の可算・稠密の定義から、無理数$x$に向かう有理数の点列を生成できます。すなわち$\{\boldsymbol{x}_j\}\subset\mathbb{Q}$です。これはそのまま導集合ですから、無理数$x$は$\mathbb{Q}$の導集合の要素(集積点)です($x\in\mathbb{Q}^d$)。これらの結果をまとめると

$$x\in\mathbb{Q}\cup\mathbb{Q}^d$$

右辺は閉包に等しいので、任意の実数$x$は、有理数も無理数も、有理数の閉包の要素であることがわかりました。

$$x\in\overline{\mathbb{Q}}$$

すなわち、有理数の閉包をとったものが実数です。

$$\mathbb{R}=\overline{\mathbb{Q}}$$

稠密な部分集合$\mathbb{Q}$の閉包が$\mathbb{R}$ですから、実数は可分な(separable)集合です。


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カントール集合は濃度$\aleph_0$、測度0の不思議な集合です。


2024年4月16日

写像と濃度(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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写像は集合の濃度を調べるツールと考えると、よいのかもしれません。

単射とは、出所である定義域のすべての要素の像が別々だということです。これまで用いてきた集合を少しだけ変えて例にしましょう。数の集合 $\{1, 2, 3\}$からメニューの集合$\{カレー, 天丼, ラーメン, ピザ\}$への写像 $f$ を考えます。1のボタンを押すとカレーの食券、2のボタンを押すと天丼の食券、3のボタンを押すとラーメンの食券が出てきます。この写像は、定義域のすべての要素が異なる像を持ちます。

$1\stackrel{f}{\mapsto}カレー$
$2\stackrel{f}{\mapsto}天丼$
$3\stackrel{f}{\mapsto}ラーメン$

もう1つのメニューであるピザの食券に対応するボタンはありません。このように、定義域のすべての要素の像が異なり、かつ終域に余りが生じうるとき、単射といいます。このとき、2つの集合の濃度は

$$|数の集合|\leq|メニューの集合|$$

となります。数の集合の濃度は3、メニューの集合の濃度は4ですから明らかです。一般に、集合$A$から集合$B$への単射が存在するとき、次の濃度の関係が成り立ちます。

$$|A|\leq|B|$$

全射とは、行先である終域のすべての像に至る定義域の要素があるということです。ここでは上の例から少し変えて、数の集合$\{1, 2, 3, 4\}$からメニューの集合$\{カレー, 天丼, ラーメン\}$への写像 $g$ を考えましょう。1のボタンを押すとカレーの食券、2のボタンを押すと天丼の食券、3のボタンを押すとラーメンの食券、4のボタンを押してもラーメンの食券が出てきます。この写像は、終域のすべての要素が、その要素に至る始域の要素を持ちます

$1\stackrel{g}{\mapsto}カレー$
$2\stackrel{g}{\mapsto}天丼$
$3\stackrel{g}{\mapsto}ラーメン$
$4\stackrel{g}{\mapsto}ラーメン$ 

写像の定義から、定義域に余りが出てはいけません。定義域のすべての要素から矢印が出ていないといけません。行先である終域の像が同じであっても構いません。このように、終域のすべての像に至る定義域の要素があるとき、全射といいます。このとき、2つの集合の濃度は

$$|数の集合|\geq|メニューの集合|$$

となります。数の集合の濃度は4、メニューの集合の濃度は3ですから明らかです。一般に、集合$A$から集合$B$への全射が存在するとき、次の濃度の関係が成り立ちます。

$$|A|\geq|B|$$

集合$A$から集合$B$への写像が単射であれば$|A|\leq|B|$、集合$A$から集合$B$への写像が全射であれば$|A|\geq|B|$となります。そうであれば、単射と全射の特徴をあわせ持つ全単射は、$|A|\leq|B|$かつ$|A|\geq|B|$ですから

$$|A|=|B|$$

濃度が等しくなるしかありません。こうしたことから、写像は濃度を調べるツールといえます。


2024年4月15日

集合の濃度(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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集合の濃度(cardinality)とは、大まかに、集合の要素の数です。前の記事で例に用いた2つの集合$\{1, 2, 3\}$と$\{カレー, 天丼, ラーメン\}$の要素の数はいずれも3つですので、濃度は等しいです。濃度の特徴から、集合を3種類に分けることができます。


  • 有限集合:3つ、100個、$n$個など
  • 可算無限集合:数えられるけど、数え終わらない
  • 非可算無限集合:そもそも数えることができない

1つめの有限集合はわかりやすいです。上の例では、集合の要素の数はいずれも3でした。

2つめの可算無限集合とは、1, 2, 3, …と要素の数を数えることができても、数え終わることはない集合です。たとえば、とても大きな集合の要素を1,000,000,000,000(1兆)まで数えたとしましょう。一秒ずつ1兆個まで数えるのに3万年を超える年数かかります。それでもまだ要素の数を数え終わらないのであれば、1兆1、1兆2、1兆3、…と数え続けなければなりません。このように数えられるけどキリがない数(自然数個)要素がある集合のことを可算無限集合といいます。

3つめの非可算無限集合とは、そもそも要素の数を数えることができない集合です。実数の集合を例に考えてみましょう。実数の数直線上で、1より大きい最小の数は何でしょうか。1.01でしょうか。1より大きく1.01より小さい1.001があるので違います。では1.001はどうかというと、これも違います。1より大きく1.001より小さい1.0001があるからです。では、実数の数直線上で1より大きい最小の数は何かというと、答えようがないですよね… こうした、要素の数を数えようがない集合を非可算無限集合といいます。

有限集合の濃度は比べやすいです。集合の要素の数を数えるだけです。たとえば$A=\{1, 2, 3\}$、$B=\{10, 20, 30, 40\}$であれば、$A$の要素の数は3、$B$の要素の数は4ですので、$A$の濃度は$B$より低いとすぐわかります。濃度を絶対値で表すと

$$|A|<|B|$$

可算無限集合と非可算無限集合の濃度をどう考えるかは難しいです。なぜかというと、どちらも要素が無限個あるからです。でも、直感的に、可算無限集合より非可算無限集合のほうが濃度が高いと感じます。この直感にそって、数学ではこれらの集合の濃度は異なると考えます。自然数を$\mathbb{N}$、実数を$\mathbb{R}$とおくと

$$|\mathbb{N}|=\aleph_0$$
$$|\mathbb{R}|=\aleph$$
$$\aleph_0<\aleph$$

不思議な記号$\aleph$はアレフと読みます。高度な話になって恐縮ですが、全体集合と同じ濃度の真部分集合が存在する不思議な集合を無限集合といいます。なんだかドラえもんの四次元ポケットみたいですね。たとえば、指数関数 $y=e^x$ は $x\in\mathbb{R}$ から $y\in \mathbb{R}_+$ への全単射とみることができます。全単射ですから、始域である実数$\mathbb{R}$と値域である実数の真部分集合(正の実数$\mathbb{R}_+$)の濃度は等しくなります。

$$|\mathbb{R}|=|\mathbb{R}_+|=\aleph$$

全体集合とその真部分集合の濃度が等しいというのは直感に反しますが、ふだん何気なく使っている指数関数が全単射であることから、実数とその真部分集合の濃度は等しいことがわかります。これに対して、全体集合と同じ濃度の真部分集合が存在しないふつうの集合を有限集合といいます。有限集合と可算無限集合をあわせて高々可算集合(at most countable set)といいます。


集合と写像(Set Theory)

※私は数学者ではありません。自分用のまとめとしてこれを書いています。楽しむ範囲でご覧いただければ幸いです。内容の正確性については専門家のサイトや動画、あるいは専門書で必ず確認をお願いします。


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要素(element)の集まりを集合(set)といいます。たとえば

$$\{1, 2, 3\}$$

という3つの数の集まりは集合です。要素は元(げん)ともいいます。1は上の集合の元です。下のメニュー表も、要素の集まりですので集合です。

$$\{カレー, 天丼, ラーメン\}$$

集合と集合の関係を考えることができます。食券を買って入る食堂を例にしましょう。発券機の1を押すとカレーの食券、2を押すと天丼の食券、3を押すとラーメンの食券が出てきます。これを数の集合からメニューの集合への対応関係とみるとき、写像(mapping)といいます。

写像の出所となる集合を始域または定義域(domain)、行先となる集合を終域(codomain)といいます。写像の出所を定義域としたときの行先を値域(range)または像(image)といいます。一般に、定義域 $X$から値域$Y$への写像 $f$ を次のように書きます。

$$f:X\rightarrow Y$$

$X$の要素 $x$ から$Y$の要素 $y$ への関係に注目するとき、次のように書きます。

$$y=f(x)$$

集合と集合の対応関係 $f$ を写像と言うには、いくつかの条件があります。1つは、定義域のすべての要素に行先があるということです。ボタンを押しても食券が出てこなければ、それは発券機とは言えません。

もう1つは、定義域のすべての要素の行先が1つであることです。1のボタンを押したとき、カレーの券と天丼の券、2枚出てくるような発券機は故障しています。1のボタンを押したとき、出てくる食券は1枚でなければなりません。(ここでは、多価関数を考えないということです。)

定義域のすべての要素の行先が値域の別々の要素であるとき、単射(injective)といいます。上の例の $f$ は、1からカレーへ、2から天丼へ、3からラーメンへというように別々の要素への写像ですので単射です。

写像を逆にたどって、値域のすべての要素に対応する定義域の要素があるとき、全射(surjective)といいます。カレーを逆にたどると1、天丼を逆にたどると2、ラーメンを逆にたどると3です。値域のすべての要素に対応する定義域の要素がありますので、$f$ は全射です。

$f$ のように、単射と全射の性質をあわせ持つ写像を全単射(bijective)といいます。全単射は「逆写像が存在する」とも表現します。上の例で逆写像とは、写像 $f$ で数の集合からメニューの集合へ像を写したものを、数の集合に戻す作業にあたります。一般に、値域 $Y$ から定義域 $X$ への逆写像 $f^{-1}$ を次のように書きます。

$$f^{-1}:Y\rightarrow X$$

$Y$の要素 $y$ から$X$の要素 $x$ への関係に注目するとき、次のように書きます。

$$x=f^{-1}(y)$$

逆写像が存在するとき、値域に写した像から定義域のもとの要素に戻ってきます。上の例では「1を押すとカレーの食券が出る、カレーの食券が欲しければ1を押す」という関係です。

$1\stackrel{f}{\mapsto}カレー\stackrel{f^{-1}}{\mapsto}1$
$2\stackrel{f}{\mapsto}天丼\stackrel{f^{-1}}{\mapsto}2$
$3\stackrel{f}{\mapsto}ラーメン\stackrel{f^{-1}}{\mapsto}3$

こうした関係にある写像(ここでは $f^{-1}\circ f$)を恒等写像(identity map)といいます。「全単射が存在する」「逆写像が存在する」「恒等写像が存在する」は、同じことを異なる言葉で表したものです。集合$A$から集合$B$への単射があり、かつ集合$B$から集合$A$への単射があるとき、全単射が存在します(ベルンシュタインの定理)。

集合にこうした関係があるとき、集合の濃度は等しいといいます。上の例では、数の集合の要素は3つ、メニューの集合の要素も3つですので、集合の濃度は明らかに等しいです。