2020年4月8日

ネイピア数 e

今回はネイピア数 $e$ についてです。ネイピア数とは自然対数の底のことです。苦手な人に読んでいただければ幸いです。

目次
  1. ネイピア数とは
  2. 底が $e$ の対数関数
  3. 底が $e$ の指数関数
  4. 対数と指数の関係

この記事を動画にしてみました。あわせてご覧ください。

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(数式の部分、スマホから見ると文字化けしてしまうかもしれません。TeX系の宿命です。申し訳ないです…)


1 ネイピア数とは

ネイピア数 $e$ の「ネイピア」は、対数を発見したといわれるジョン・ネイピア(1550-1617)という人の名前です。ネイピア数は、ネイピアの考えをもとに、ヤコブ・ベルヌーイ(1654-1705)が計算したとされています。記号 $e$ はレオンハルト・オイラー(1707-1783)が使いはじめたようです。200年くらいの時間、3人の天才によって熟成されてきたのがネイピア数です。

ネイピア数は、次に示すように、小数点以下無限に続く数です。

$$e=2.7182818284...$$

前々回、n次関数の微分はa、b、cの3段階でできると説明しました。対数関数の微分は、この3段階が使えないので難しいです。それで、難しい微分を楽にする特別な対数の底を考えることにしました。これが $e$ です。










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2 底が $e$ の対数関数

とても大胆な発想ですが、対数の微分が $\frac{1}{x}$ になるような対数の底を考えます。すなわち

$$(log_ax)'=\frac{1}{x}$$

となる $a$ を考えます。このように定義した $a$ がどんな値を取るか、微分の定義式を使って調べてみましょう。微分の定義式は

$$\lim_{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$$

この式は、$x$ がかすかに(0に限りなく近い $h$ だけ)動いたとき、関数の値がどれほど動くか(分子の引き算)を表しています。この定義式の分子に対数関数を代入すると

$$\lim_{h\to 0}\frac{log_a(x+h)-log_ax}{h}$$

下図は、この定義式と $\frac{1}{x}$ の値を比べたものです。定義式と $\frac{1}{x}$ の値が等しくなるのは $a$ の値が2.7182818284... のときです。この $a$ を $e$ と定義します。











* $x=10$ としてプロットした。$e$ の値は $x$ の値によらない。

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$e$ を底とする対数を自然対数といいます。自然対数の関数は次のように表記されることがあります。

$$y=log_{e}x\equiv \ln x$$

この対数関数の微分は、定義から

$$y'=\frac{1}{x}$$

下図は $y=\ln x$ と $y'$ のグラフです。関数の特徴をいくつか示します。

$x<0$ のとき、$y$ と $y'$ は定義できない
$x\to 0$ のとき、$y\to -\infty$、$y'\to +\infty$
$x=1$ のとき、$y=0$、$y'=1$

$x$ の値が0にとても近いとき、$y$ の値は $-\infty$ にとても近くなります。$-\infty$ はとてつもなく小さな数です。$x$ が0近傍からわずかに増えると $y$ の値は想像を絶するほど増えます。宇宙の谷底から光速でグワッと浮き上がってくるイメージです。$x=1$ のとき、自然対数の値は0、微分の値は1となります。$x>1$ のとき、微分の値は1より小さくなります。$x$ の値がとても大きいとき、微分の値は0にとても近くなります。$y$ の値はとてもゆっくり増えるようになります。












(動画で無限小と言ってしまっていますが、正しくはマイナス無限大です…)
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3 底が $e$ の指数関数

つづいて、底が $e$ の指数関数を考えます。なんとも不思議なことに、底が $e$ の指数関数の微分は微分前の関数と全く同じです。

$$y=e^x、 y'=e^x$$

下図は $y=e^x$ と $y'=e^x$ のグラフです。関数の特徴を示します。

$x=0$ のとき、$y=1$、$y'=1$
$x=1$ のとき、$y=e$、$y'=e$

指数関数は、すべての $x$ の値について $y$ と $y'$ を定義できます。$x$ の値がとても小さいとき、$y$ と $y'$ はいずれも0にとても近い値を取ります。$x$ の値が1を超えると $y$ と $y'$ はいずれも急増します。$x$ の値がとても大きいとき、$y$ と $y'$ はいずれもとても大きな値を取ります。











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$e$ を底とする関数の微分が関数自身になることを、微分の定義式を使って確かめましょう。微分の定義式は

$$\lim_{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$$

この定義式の分子に $a$ を底とする指数関数を代入すると

$$\lim_{h\to 0}\frac{a^{x+h}-a^x}{h}$$

下図は、この定義式と 微分の値 $e^x$ の値を比べたものです。定義式と $e^x$ の値が等しくなるのは $a$ の値が2.7182818284... のときです。











$e$ は、対数関数の微分の値が $\frac{1}{x}$ となるような対数の底、かつ指数関数の微分の値が $e^x$ となるような底です。とても不思議で面白いですね。

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4 対数と指数の関係

対数と指数は互いに逆関数の関係にあります。まず、指数から対数の関係をみましょう。指数関数 $y=e^x$ について、$x=2$ のときの $y$ の値は

$$y=e^2=7.389...$$

この値を対数関数 $x=\ln y$ に代入すると

$$y=\ln 7.389=2$$

不思議なことにはじめの数、2に戻りました。このように数がもとに戻る関数のペアを逆関数といいます。さらに、得た $y$ の値 2を指数関数に代入すると

$$y=e^2=7.389...$$

7.389...という値に戻ります。したがって、対数から指数をみても、逆関数の関係にあります。この結果をもとに

$$y=ln e^y、 x=e^{ln x}$$

という関係が導かれます。









今回は、とてつもなく不思議な数 $e$ についてでした。このように $e$ を定義すると、対数と指数の微分がとても楽になります。この点については次回以降みることにしましょう。


ネイピア数の詳細はこちらを。イメージをひろげましょう!
https://www.youtube.com/watch?v=m2MIpDrF7Es
https://www.youtube.com/watch?v=sULa9Lc4pck